遺産相続では物理的な分割が難しい不動産物件について、相続者同士の共有名義にすることは珍しくない。
共有名義の土地は自分一人の意思でアパートなどを建てられないため、基本的に共有状態を解消してから運用すべきである。
今回は土地の共有名義を解消して不動産物件として活用するための方法をいくつか紹介する。
目次
共有名義の土地は運用が難しい
一つの土地を複数人で所有している共有名義の土地は、運用にあたって全員の承認が必要になるため難易度が高い。相続した土地などで他の共有者との間で、土地の運用等で意見が対立した場合には、共有名義を解消してから不動産として運用することも考えられる。
共有名義の土地・建物の運用の難しさ
・共有者全員の同意を得られないとアパート建築や駐車場への改装ができない
・家賃収入の分割や管理責任の役回りなど面倒ごとが多い
・共有建物も大規模修繕や増改築、売却も共有者全員の同意が必要
上記はあくまで一例だが、共有名義の土地は通常の不動産運用に加えて多くのハードルやデメリットがあるため、共有者全員が協力し合える関係にない場合には、おすすめできない。
極端な例だが、赤字状態がずっと続いているアパートも、反対者が一人でも居たら売却することはできないのである。
土地の共有名義は遺産分割が簡単になるメリットはあるが、運用を目的とするならデメリットの方が大きい。なるべく解消したほうが良いだろう。
時間が経つと共有者が増えたり権利関係が複雑になったりするリスクも高まるため、早めに共有名義を解消しておくことをおすすめする。
土地の共有名義を解消する方法
土地の共有名義解消にはさまざまなバリエーションがあるが、ここでは比較的メジャーな方法を5つご紹介する。
それぞれの方法に向き不向きがあるため、ご自身の状況に適したパターンを検討してほしい。
土地の分筆
建物が何も建っていない更地なら、分筆して共有名義を解消するのが比較的スタンダードな方法だ。
分筆とは一つの土地を複数に分けて登記しなおす方法で、番地もそれぞれ付くため自己所有分を自由に扱えるようになる。
小さい土地を分筆してしまうと用途が限定されて価値が下がる可能性があるため、比較的広い土地に向いている方法と言えるだろう。
ただし分筆は日当たりや道路の向きなどを考慮する必要があり、単純に持ち分に応じた面積で分けられない点は若干難しいポイントだ。
共有者同士で土地運用に関する意見が分かれているが仲は良好な場合に検討してみるといいかもしれない。
共有者同士で売買する
土地の持分は共有者同士で売買することができ、一人に全員分の持分を集めることで共有名義を解消できる。この方法は「持分移転」「代償分割」などの呼び方もある。
「アパートを建てて運用したい」「売却したい」と意見が分かれた場合、理想的な方法と言えるだろう。
持分移転は取引価格が相場からかけ離れていると、税務署からの指摘が入るケースがあるため注意が必要だ。兄弟など血縁者同士での取引の場合でも、市場相場を調査して適正価格で売買してほしい。
共有名義の土地を交換する
相続で複数の土地が共有名義状態になっている場合、同価値の土地を交換して共有解消する方法もある。
A・Bという同価値の土地を兄弟で50%ずつ持っているなら、それぞれの持分を交換することで単独所有にすることができる。現金を使わず共有名義を解消でき、条件を満たせば譲渡所得税が課税されないといったメリットがある。
ただし土地と建物など物件種別が違ったり時価総額の差があったりすると交換は難しい。親族間で複数の土地を相続した場合、積極的に検討してみると良いだろう。
まとめて売却する
共有名義の土地をまとめて売却し、売却益を持分に応じて分割するのも分かりやすい解除方法だ。仮にAが2/3、Bが1/3の持分の土地を3,000万円で売却できた場合、Aが2,000万円、Bが1,000万円を受け取る計算になる。
共有名義の土地を遊ばせておくくらいなら、売却益で次の物件を購入して新しいキャッシュフローを生み出した方がいいだろう。
共有名義の土地売却は、身分証明書や実印など必要書類を人数分集めるだけで通常の売却と手間はそれほど変わらない。
持分のみの売却だと市場相場より安くなるケースが多いため、まとめて売却したほうがメリットも大きい。
ただし広すぎる土地だと売却が難しかったり買い手が限られたりするケースもあるため、分筆してからの売却とどちらが良いか比較検討するのがおすすめだ。
持分放棄する
対象となる土地の価値が低く運用の見込みが少ないなら、持分放棄による共有名義解消という手もある。
運用できない土地を所有し続けて無駄な税金や管理費用を払うくらいなら、持分を放棄してでも共有名義から脱したほうが良いケースもあるかもしれない。
一人で所有する不動産は放棄することができないが、共有名義の土地は持分放棄が認められている。放棄した土地の所有権は共有者に帰属し、みなし贈与とみなされて贈与税が課税されるおそれがある。
持分放棄は相手の同意が不要なため、共有名義相手と不仲だったり連絡が取れなかったりといったケースでも土地を手放すことができる。ただし、持分放棄による所有権移転登記は共有者との共同申請となるため、結局他の共有者の協力がないと登記が実現できない。
そのため、共有持ち分を手放したい場合は、可能であれば話し合ったうえで持分移転をするか、持分移転ができないようなやむを得ない場合に持分放棄をしたほうが良いだろう。
共有名義解消に応じてもらえない時の対応
共有名義の土地の扱いは、親族間でも意見が割れることが少なくない。
意見がまとまらないが持分放棄はしたくない場合の対応は、共有物分割請求・共有持ち分のみの売却の2パターンが考えられる。
共有分割請求権は、共有者がいつでも共有物の分割を請求できる権利のことだ。
共有分割請求では協議や調停が難しい場合、裁判所の判断で土地の共有状態解消を目指すことになる。
弁護士費用や訴訟費用は掛かるが法的な強制力があるため、話し合いに応じてもらえない時の一つの選択肢になるだろう。
共有名義の土地を第三者に部分売却するのは基本的に難しいが、専門の買取業者や投資家などに売却する方法もある。
自分の持分のみの売却なら共有者の同意が必要ないため、全く話し合いに応じてもらえないケースでも土地を資金に変えることができる。
ただし共有名義状態であることは変わらず用途が限定されるため、相場価格より安く買い叩かれてしまうことがほとんどだ。
また買取業者は基本的に他の共有者の持分も買い取ることを目的としているため、黙って自分の持分だけを売却するとトラブルになる可能性は高い。
どちらの方法にしても共有者とのトラブルに発展するのは避けられないため、なるべく最後の手段として基本は話し合いで解消するのが望ましいだろう。
まとめ
土地の共有名義解消方法は複数のパターンがあり、それぞれメリット・デメリットがある。
共有者の意見や土地の価値などによって適した方法は変わるため、ご自身の状況と照らし合わせて比較検討するべきだろう。
状況によってはその土地自体の運用にこだわらず、手放して次の物件に取り組む判断も必要だ。
さまざまな選択肢の中から適切な方法を選び、安定した不動産運用を目指してほしい。