借地にアパートやマンションを建てて運用する場合、契約更新できなかった時のリスクが気になる方も多いのではないだろうか。
契約内容によっては「建物買取請求権」で地主に建物を買い取ってもらうことができるため、借地の不動産運用も十分検討する余地がある。
今回は建物買取請求権の詳しい内容や実際の流れ、実際の判例などを詳しく解説する。
目次
建物買取請求権とは
建物買取請求権は、借地の契約期間が満了した際、地主に対して建物の買取を請求できる権利のことだ。借地借家法第十三条に次のような条文で定められている。
借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
分かりやすく言えば、建物買取請求権は借主側の権利を保障するものである。本来借地人は建物を解体して更地で返却しなければならないが、建物買取請求権を行使すれば解体費用がかからず建物も買い取ってもらえるわけだ。
建物買取請求権の要件
実際に建物買取請求権を行使できるのは、次の3つの要件を満たしているときだ。
1:借地権の契約期間が満了した
2:契約を更新しない
3:借地上に借地人が所有する建物がある
上記の要件をすべて満たしている状態なら建物買取請求権が認められる。
建物買取の流れ
具体的な建物買取までの流れは以下の通り。
流れ1:借地権の契約期間が満了し、地主に対し建物買取請求権を行使する
建物買取請求権は行使した時点で地主・借地人の間に売買契約が成立したことになる。
流れ2:地主との間で買取価格を協議する
建物買取請求権を行使しただけでは具体的な買取価格は決まらないため、地主との協議が必要となる。借地人は地主から建物代金の支払いがあるまで引き渡しを拒否することができる。これを同時履行の抗弁権と呼ぶ。また借地についても明け渡しの義務がない。ただし敷地を利用している期間の賃料支払い義務は発生する。
流れ3:支払い後建物と土地を明け渡す
地主から建物の代金を受け取ったら、土地と建物を明け渡す。建物に賃借人がいる場合、そのまま地主に引き継がれることになる。
建物買取請求権は強行規定
借地借家法の第16条では、建物買取請求権を排除する特約を無効とする規定がある。
第十条、第十三条及び第十四条の規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。
この条文によって借地人にとって不利な特約は無効となり、建物買取請求権は強行規定とされている。
後述する定期借地権などの場合を除き、地主の都合で建物買取請求権を排除することはできない。
建物買取請求権による売買価格
借地上の建物を建物買取請求権で買い取ってもらう際の価格は時価と定められている。
時価には借地権は含まれず、建物の建築費用を減価償却し、場所的利益を考慮した価格とされている。
また不動産物件に賃借人がいる場合、建物買取請求権を行使するとそのまま地主賃貸人となり、買取価格の決定時に考慮される。
建物買取請求権による売買価格は過去の判例でもばらつきがあり、一概に相場を決めることはできない。それゆえ時価とされているため、不動産経営の出口戦略として過大な期待はしない方が良いだろう。
建物買取請求権を使えないパターン
次の2つのケースでは、建物買取請求権が使えない可能性があるので注意してほしい。
定期借地権契約
地主と定期借地権契約を結んでいる場合、建物買取請求権が使えないケースがある。
一般定期借地権や事業用借地権は、買取請求を認めない特約が有効になる。
この場合は契約満了時に建物買取請求権が認められず、建物を取り壊して更地にして返還しなければならない。
これからアパートやマンションを建てる借地を探す場合、借地権の種類と契約内容にしっかり目を通して建物買取請求権について確認するべきだろう。
途中解約
何らかの理由で借地権契約が途中解約になった場合、建物買取請求権の要件を満たさないため行使することができない。
例えば借地人が地代家賃を滞納して契約解除になった場合、建物買取請求権は認められないため建物を解体して更地にする義務が発生する。
地主と借地人が合意して途中解約になった場合でも、建物買取請求権は放棄したとみなされてしまう。地主に建物買取りの義務はないため、買い取ってもらえるかどうかは交渉次第となる。
建物買取請求権を使う前提で借地不動産経営をする場合、トラブルによる途中解約の無いように注意してほしい。
建物買取請求権の判例
最後に、建物買取請求権に関する判例を一つ紹介する。実際の判例を基に、分かりやすく内容を抜粋している点ご了承いただきたい。
概要
借地上の築40年経った建物に対し、借地人Aが地主Bに建物買取請求権を行使した。地主Bは建物が古く、借地権が無い場合の建物時価が0円であると主張し、建物買取請求権の成立を否定している。
判決
建物買取請求権を否定する地主の主張は無効であると判断された。
借地権が無い場合の取引価格が0円だったとしても、建物買取請求権を行使した時点で土地・建物の所有権は地主に移行するため、建物の時価を0円と判断するのは妥当ではない。
建物の時価に借地権の価値は含まれないが、実際は地主が土地・建物を同時に所有することになるため、そのメリットは考慮されるというケースである。もし古い建物の建物買取請求権を地主から拒否された場合も、鵜呑みにせず建物の査定などをきちんと行うのが良いだろう。
まとめ
建物買取請求権は借地人を保護する強力な権利であるため、借地上でのアパート・マンション経営を検討する際必ずチェックすべきである。
定期借地権による排除特約や、途中解約の可能性がなければ、地主に建物を買い取ってもらい、借地契約満了時の費用負担を軽減できる。
老朽化した建物の解体を地主から求められても、あきらめず建物買取請求権を上手に活用してほしい。