アパートやマンションなどの集合住宅を扱う不動産経営では、放置自転車やゴミ放置といったトラブルに遭遇する可能性がある。
不動産物件のトラブルは物件の入居率に影響するため迅速に対応したいところだが、解決が難しく頭を悩ませるオーナーの方も少なくない。
今回はこうした不動産物件トラブルの解決手段として、妨害排除請求権について詳しく解説する。
不動産経営で起こり得る妨害排除請求権のよくあるケースや具体的な判例も紹介するので、ぜひ参考にしてほしい。
目次
妨害排除請求権とは
妨害排除請求権は、物権が占有以外の形で妨害されているとき、妨害の排除を請求する権利のことだ。
例えばマンションの敷地にゴミを不法投棄している人に対し、オーナーは投棄されたものの撤去等を請求することができる。
妨害排除請求権は「物権的請求権」の一つで、ほかには返還請求権、妨害予防請求権がある。
返還請求権との違い
妨害排除請求権と返還請求権は混同されることが多いため、違いを把握しておこう。
返還請求権は不法占拠など、自分の土地や建物を完全に他人に奪われてしまっている状態が対象になる。
対して妨害排除請求権は、自分の土地や建物は使えているものの、何らかの妨害を受けている状態が対象だ。所有権を取り戻すという目的は同じだが、状況によって行使する権利が異なることを覚えておこう。
妨害排除請求権の代位行使とは?
民法では債権者代位権という概念があり、債権者が自己の債権を保全するために債務者の権利を代わりに行使できる。
例えばアパートの賃借人が自分の借りている専有庭に、他人がゴミを放置したとしよう。賃借人は所有権を持たないため本来妨害排除請求できないが、オーナーに代わってゴミの排除を請求することができる。これが妨害排除請求権の代位行使である。
妨害排除請求権による自力救済はできない
妨害排除請求権はあくまで「妨害を取り除く請求をする権利」であり、自力救済はできないことに注意してほしい。自力救済とは裁判などの公的な権力を借りず自力で権利を行使することで、原則的に禁止されている。
例えば自分が所有するアパートの敷地に他人の自動車が放置されていても、勝手に移動や処分をしてはいけないということだ。
仮に放置車両を勝手に撤去処分してしまった場合、所有者から損害賠償の訴えを起こされる可能性もある。妨害排除請求権を使うための詳しい手順は3章で後述するが、ここでは自己判断で権利を行使できないことを覚えておいてほしい。
不動産物件の妨害排除請求の例
アパート前の放置自転車
敷地内の放置自転車は所有権の妨害とみなされ、妨害排除請求の対象となる。
自転車は施錠してあっても移動が容易だが、前述したように勝手な処分は自力救済とみなされてしまうため注意が必要である。
盗難届が出ている自転車は警察署が引き上げることになっているので、まずは防犯登録を確認して警察に問い合わせてみるのが良いだろう。
仮に盗難届が出ていなくても、所有者が判明すれば警察から撤去指導がなされることもある。
自転車の持ち主が判明したが連絡が付かないケースでは、妨害排除請求で処分の許可を求めていく流れになる。
隣の家の樹木が伸びてきた
隣の敷地に建つ樹木が伸び、境界を越えて枝や落ち葉による実害が発生するケースも妨害排除請求にあたる。
樹木の越境は大量の落ち葉で雨どいが詰まったり、台風などで枝が落下して窓が割れたりといった被害が予想される。このような被害が考えられる場合、隣の樹木の所有者に対し枝を切るように請求できる。
ただしこのケースもあくまで木を切る請求ができるだけであって、自分で勝手に枝を排除することはできない(2023年(令和5年)4月1日施行の民法改正で、所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき等の一定の場合には、土地の所有者が枝を切り取ることが認められる)。
ちなみに木の根が越境してきた場合は、持ち主の承諾を得ず切ることが可能だ。
ゴミ屋敷の物が越境している
近年相隣関係トラブルの原因になることが多いゴミ屋敷も、敷地を越境してきた場合妨害排除請求の対象になり得る。敷地内のゴミは本人にとっては「財産」なため対処が難しいが、こちらの土地にはみ出してきた場合は放置自転車などと同じ扱いになる。
ただし越境物を一時的に片づけても、ゴミ屋敷問題自体を解決できなければ意味がないことも多い。
ごみ屋敷条例を制定している自治体もあり、相談することで調査や指導、最終的には行政代執行をしてもらえるケースもある。
越境物については妨害排除請求で対処し、ゴミ屋敷そのものについてもほかの方法で対応を進めたいところだ。
隣の擁壁やブロック塀が傾いてきた
築年数の経っている住宅街などでは、境界線の擁壁やブロック・万年塀の傾きが発生するケースも少なくない。すぐに被害が発生する状況ではないが、地震や台風といった外的要因で壁が倒壊すれば大きなトラブルに発展する恐れがある。
基本は塀の所有者との話し合いで解決するのが望ましいが、対応してもらえない時は「妨害予防請求権」を行使することになる。
妨害予防請求権は物件が妨害されるおそれがある場合、予防を請求できる権利のことだ。
危険性の原因が相手の塀にあることを立証しなければならないため少しハードルは高いが、建物や入居者を守るためには積極的に活用すべきだろう。
妨害予防請求をする方法
実際に妨害予防請求をするには、裁判所に訴えを出すことになる。
土地や不動産の妨害排除請求は、被告となる人物の住所を管轄する簡易裁判所か地方裁判所に申し立てする。
判決が出るまではある程度の時間がかかるため、緊急性の高い内容の場合は仮処分を求める方法もある。
境界ブロックが倒壊しかけていて、建物や人に被害が発生しそうなシーンでは仮処分が認められる可能性が高い。
いずれにせよ正式な手続きで裁判を起こす必要があるため、時間・費用が掛かる点は覚悟が必要だ。
なるべく話し合いや調停での解決を図り、妨害排除請求はあくまで最終手段と考えるのが良いだろう。
妨害排除請求権の判例
最後に、実際にあった妨害排除請求権の判例を一つご紹介する。
【概要】
Aが新築した建物の屋根に設置された太陽光パネルの反射光で、隣の建物の円滑な利用が妨げられたとしてオーナーのBが妨害排除請求をした。
BはAに対し、太陽光パネルの撤去・損害賠償を求めた。
【判決】
一審では太陽光パネルの撤去および損賠賠償請求の一部を認め、Aが控訴した。
Bは控訴をせず、その後Aは該当部分の太陽光パネルを撤去した。
最終的には太陽光パネルの反射光のまぶしさが立証できないこと、該当箇所のパネルが撤去されたことを踏まえ、一審の賠償命令が撤回された。
この判例からは、実態を把握しにくい光や音も妨害排除請求の対象となり得ることが読み取れる。
隣の建物との距離が近い場合、目に見えない要素でもお互いの生活を妨害しないよう注意すべきだろう。
まとめ
妨害排除請求はトラブル解決手段の一つではあるが、民事訴訟になるため手続きや弁護士費用などのハードルは高い。
判決が出れば法的強制力の下でトラブル解消できるが、相手との関係性が悪化するのも避けられないだろう。
基本的には当事者同士の話し合いや調停での解決を目指し、どうしても解決できない時の最終手段として検討してほしい。