抵当権は債務不履行が発生したとき金融機関等の債権者を保護するための権利だが、もし抵当物件が無くなってしまったらどうなるのか。
そのようなときは「物上代位」を行使すれば、金融機関も債権回収できる可能性がある。
今回は物上代位の基本的な仕組み、不動産物件で考えられるシーンなどを解説する。
抵当権の物上代位とは
物上代位性とは私法の概念で、目的物が売却や滅失などによりほかの価値に変わった場合でも、担保権の効力が及ぶことを意味する。抵当権・質権・先取特権などの権利には、物上代位性があり、特に抵当権の物上代位は不動産運用も関係が深い。
例えばAがBに1000万円を貸し、Bが所有するアパートに抵当権を設定したとする。もしBがアパートを売却してしまっても、Aの抵当権は売却した金銭に及ぶということだ。
要するに物上代位性は債権者を保護するための考え方である。物上代位性がないと、債権者は抵当物件が無くなったら困ってしまう。担保物件が別の価値に変化しても物上代位性が及ぶことで、債権の担保性が保たれるということだ。
物上代位の対象と具体的な例
不動産経営で起こり得る物上代位の具体的なケースを2つほど挙げて解説する。
例1:焼失⇒火災保険
抵当物件が火災により焼失した場合、火災保険の請求権が物上代位の対象となる。
ただし火災保険はあくまで建物が対象となるため、土地に抵当権を設定している場合は物上代位が及ばない点には要注意だ。
また詳しくは4章で後述するが、火災保険料が債務者に引き渡される前に差し押さえないと物上代位が認められない。
例2:債務不履行⇒賃料
抵当目的物件が賃貸物件で、債務不履行があった際は賃料債権が物上代位の対象となり得る。
抵当物件を競売にかける場合、実際に売れるまではある程度の時間がかかる。また不動産としての価値が低い場合、売れたとしても債権を回収できるとは限らない。賃料債権を差し押さえてしまった方が、債権回収しやすいケースもあるということだ。
賃料を差し押さえる場合は債権者が裁判所に申し立て、差し押さえ命令が発令されることになる。賃料の取り立ては原則債権者自信が直接行うことになる。この場合、オーナーは賃料を回収できないことになる。
債権譲渡されても物上代位は行使できる?
もし物上代位権を使おうとしている目的債権が第三者に譲渡されても、抵当権者は権利を行使することができる。
これは債務者が債権譲渡によって物上代位を免れることを防ぎ、抵当権者の利益を保護するためだ。
ただし、借家のまた貸しなどによる転貸賃料は基本的に物上代位が認められないので注意が必要だ。
抵当権の物上代位性が認められないケース
次のようなケースでは物上代位性が認められない。
対象が引き渡された後
抵当権を担保する目的物が債務者に引き渡された後も、物上代位が認められないため注意が必要だ。抵当権に準用されている民法304条第1項に次のような条文がある。
“先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。”
例で挙げた火災保険料の場合、保険会社から債務者に支払われる前に差し押さえしなければならない。
賃料のケースも同様に、賃借人から債務者に賃料が支払われてしまった後では、物上代位が認められない。
まとめ
抵当権は不動産経営においてなじみ深い権利だが、物上代位は実際の債権回収に影響するためしっかり把握しておきたい。
債権者・債務者どちらの立場でも、物上代位を理解し万が一に備えることでリスクを軽減するのが望ましいだろう。
今回の記事が皆様の安定した不動産経営のお役に立つことを願っている。