マンションやアパートなどの賃貸経営では、騒音や臭いなどが原因で入居者同士のトラブルに発展するケースが少なくない。
しかし音や臭いは人によって感度が違うため、判断や解決が難しい。
この記事では、近隣トラブルについて判断する「受忍限度論」という考え方を分かりやすく解説する。
賃貸経営で起こり得る受忍限度のパターンや判例なども紹介するので、オーナーの方はぜひ知識として覚えておいていただきたい。
目次
受忍限度論とは
一般的な日常生活で発生する騒音や臭いなど、社旗通念上がまん(受忍)できる範囲のことを「受忍限度(じゅにんげんど)」と呼ぶ。
マンションやアパートなどの集合住宅では、生活音や振動などをゼロにするのは難しい。受忍限度論に基づき、他人に被害を与えない範囲で生活を送る必要がある。
もし受忍限度を超えるような騒音や臭いが発生したときは、法的手段を用いて被害を解消することも必要だ。
逆に受忍限度の範囲内の事象は不法行為とはみなされず、損害賠償や差し止め請求は認められない。
受忍限度の判断
受忍限度論の対象となる音・振動・臭いなどの要素は、受け取る人によって感覚が異なるため判断は難しい。
上の階の足音を例に挙げると、同じ音量でもうるさいと感じる人と気にならない人がいるだろう。
また対象となる物件の構造や環境、侵害行為の発生状況や程度、防止措置の有無など、様々な要素が判断基準となる。
条例などの基準値を超える騒音が発生したとしても、短い時間なのか、常に発生しているのかでも判断は変わってくる。
つまり受忍限度を超えているか否かを一律で判断するのは難しく、事案ごとに事情調査し個別判断する必要があるということだ。
個人で受忍限度の判断をするのは難しいため、後述するような判例を参考にしたり、弁護士などの専門家に相談したりすることも検討していただきたい。
賃貸経営における受忍限度の例
アパートやマンションなどの集合住宅で、受忍限度論の対象となることが多い事例を紹介する。
トラブルの原因になる要素をあらかじめ把握し、予防や解決に役立てていただきたい。
上階の足音がうるさい
集合住宅において、上の階の足音が階下に響く音は、トラブルに至る原因になることが多い。
鉄筋コンクリート造の分譲マンションでは床の防音規定を設けているところも多いが、木造アパートなどは足音が響きやすいため特に発生しやすい。
特に子供が居る家庭は足音が響きやすい傾向にあるため、ファミリー向けの賃貸物件を経営している方は入居時の注意喚起などで予防したいところだ。
テレビや楽器などの騒音
室内で発生するテレビやオーディオ、楽器などから発生する騒音もトラブルになるケースが多い。
テレビやオーディオの音量は、本人が気づかないうちに大きくなってしまうことが少なくない。
目覚まし時計や洗濯機など生活に関わる音も、建物の構造や受け取る人の感覚によっては騒音となることも考えられる。
また楽器演奏禁止という契約内容でも、消音器具を使って入居者が勝手に楽器を持ち込み、振動や操作音が騒音になるケースもある。契約書に楽器演奏・持ち込みが禁止だと明記し、重要事項説明で確実に伝えてほしい。
室内で発生する音については各入居者のモラルによるところが大きいが、普段から注意喚起して防止するのが望ましいだろう。
隣の家のせいで日当たりが悪化した
経営物件の隣に新しい建物が作られ、日当たりが悪化するケースも受忍限度の対象となり得る。
建築基準法では日影規制や斜線規制などで日照権を保護しているが、実際に後からつくられた建物で日陰になってしまうケースは少なくない。
違法建築でない限り、日当たりが悪くなったことが必ず違法性があるとは言えず、日当たりの悪化が受忍限度を超えていると判断される可能性は低いものの、トラブルにはなりうる。。
日照権の侵害は認められることが少ないが、周囲に大きな建物の建築計画があるときはオーナーとして早めに察知して注意すべきだろう。
タバコや家の中からの臭い
ベランダの喫煙や家の中のペットなどが発する臭いも、受忍限度論の対象となることが多い。
近年は公共の場での禁煙・分煙が進んでおり、家の中やベランダでの喫煙による臭いに苦痛を覚える方も少なくない。
タバコは臭いによる不快感だけでなく、副流煙がもたらす健康被害リスクも発生する。
また柔軟剤を使った洗濯物の香りも、人によっては悪臭に感じてしまうケースもある。
臭いは目に見えないため判断や規制が難しいが、入居者から訴えがあったらしっかり調査し解決を図りたい。
受忍限度を超えた場合取るべき対策
騒音や悪臭が受忍限度を超えたと思われる状況では、法的手続きに則り損害賠償請求や差し止め請求をすることになる。
しかし手続きの手間や費用などを考えるなら、まずは話し合いによる解決を目指したいところだ。
足音や家の中の臭いなどは意図的ではないケースも考えられ、思い切って相談すれば解決につながる可能性もある。
入居者同士の話し合いだと感情的になることもあるため、オーナーの方や管理者が間に立って話をするのが良いだろう。
受忍限度論の判例
最後に、受忍限度論に関する判例を一つ紹介する。
【概要】
ペット可の物件で暮らすAは、隣の部屋に住むBの飼い犬による鳴き声が原因で、睡眠障害などの精神的苦痛を受けたと主張し、Bに対して損害賠償請求を申し立てた。
【判決】
Bの飼い犬は深夜や早朝も含めて大きな音量で泣き続けており、Aからの苦情を受けた後も適切な改善措置を取らなかった。
犬の鳴き声は受忍限度を超えていたとして、Bに対し慰謝料・遅延損害金などの損害賠償を命じた。
このケースでは犬の鳴き声が精神的苦痛の原因になっていたこと、苦情を言われた後にBが改善措置を取らなかったことなどが判断基準となっている。
近隣トラブルが話し合いで解決できない時のことを考えると、苦情を伝えた日時や内容などを記録しておくのが望ましいだろう。
まとめ
人間同士が隣り合って暮らす賃貸住宅では、お互いの生活で出る音や臭いをある程度受忍する必要がある。
受忍限度を超えたか否かの判断は難しいため、トラブルが発生したらまずは当事者同士の話をよく聞いて状況を正確に把握しよう。
明らかに受忍限度を超えていて話し合いで解決できない場合は、法律の専門家に相談することも検討していただきたい。