不動産投資を始めようと考えた時にまず気になるのは、営業の許認可や必要資格ではないだろうか?
特に「宅建」と呼ばれる宅地建物取引士の資格との関係は気になるところだ。
そこでこの記事では不動産運用の際の宅地建物取引業の免許や宅地建物取引士の資格について詳しく解説していく。宅建資格の取得方法やメリットなども説明するので、ぜひ参考にしてほしい。
目次
宅地建物取引業法とは何か
まずは宅地建物取引業法がどのような法律なのか、概要を把握していこう。
宅地建物取引業とは
宅地建物取引業とは「宅地建物の取引」を「業として行なう」ことを指す。「宅地建物の取引」とは、自身が不動産を売買・交換することに加え、代理や媒介として人の不動産取引に関わることも含まれる。
これらの行為を「業として行なう」場合、つまり社会通念上事業の遂行と見ることができる程度に行なう場合には宅地建物取引業に該当することになる。宅地建物取引業を行うためには、宅地建物取引業免許を取得する必要がある。混同しやすいが、この宅地建物取引業免許と宅建士の資格は異なるものである。
宅地建物取引業をおこなうため必要な許可の種類は「宅地建物取引業法」によって定められていて、事務所の数や設置場所によって国土交通大臣か都道府県知事の許可が必要となる。
事務所が2つ以上の都道府県にある場合 | 事務所が一つの都道府県にある場合 | |
国土交通大臣の許可 | 〇 | × |
都道府県知事の許可 | × | 〇 |
許可を受けた業者が取引における法令違反をすると、免許を受けた国土交通大臣か都道府県知事から業務改善指示が出され、場合によっては業務停止処分等の可能性もある。
宅地建物取引士とは
宅地建物取引士とは「宅建士」とも呼ばれる国家資格で、宅地建物取引業法で定める宅地建物取引士資格試験(平成26年度までは、宅地建物取引主任者資格試験)に合格し、試験を実施した都道府県知事の資格登録を受け、かつ、当該知事の発行する宅地建物取引士証の交付を受けた者を指す。
単に試験に合格しただけでは宅地建物取引士ではない。不動産の取引でよく登場する重要事項説明・押印は宅地建物取引士の有資格者しか実施することができない。
重要事項説明書は所有者の情報から物件の面積、取引金額などの諸条件が記載された書類で、不動産契約には欠かせないものだ。身近なところでは賃貸住宅を契約する際にも書面と口頭で必ず説明があるため、体験したことがある方も多いのではないだろうか。
個人が自身のために不動産取引の交渉等をおこなう場合には宅地建物取引士の資格は不要だが、宅地建物取引業者として認可を受けるためには、宅建業に従業する者5名に対し1名の専任の宅地建物取引士を有する者を置かなければならない。
この設置の要件を満たせば、宅地建物取引業の代表者や役員自らが宅地建物取引士の資格を持つ必要はない(宅地建物取引士の従業員を雇用し、専任の宅地建物取引士とすれば良い)。
不動産投資に宅地建物取引業の免許は必須か
不動産の取引は様々なケースがあり、宅地建物取引業の免許の必要の有無もまちまちだ。免許が必須のケース、不要なケースをそれぞれ比べてみよう。
宅地建物取引業の免許が必須となるケース
自ら広く一般の消費者を対象に購入者を募り、反復継続して直接販売して売買の差額で利益を上げる目的の不動産投資は宅地建物取引業の免許が必要となる。
例えば、宅地を複数区画に分割して複数の買主に売却分譲するようなケースが該当する。売買の件数や期間が明確に定められているわけではなく、購入後しばらく寝かせておき、価格が上がってから売却するといったケースも含まれる。法人化していない個人投資家の場合も、こういった売買目的の場合は宅地建物取引業の免許が必要となる点は注意が必要だ。
宅地建物取引業の免許が不要なケース
不動産の売買でも、個人資産をそのまま売却するようなケースでは宅地建物取引業の免許は不要だ。個人として相続したマンションを売却したり、今まで住んでいた住居を売却したりするケースは、業としておこなわれていないことがほとんどなので、売却による利益が生まれても宅建業とはみなされない。
また、購入したアパートやマンションの大家として家賃収入を得るパターンの不動産投資も、宅地建物取引業の免許は不要だ。入居者との契約時に重要事項説明があり宅建士が必須となるが、別の宅地建物取引業者に仲介してもらうのが一般的である。
無免許で投資目的は違反?
個人の不動産投資についてもルール上では宅地建物取引業の免許が必要となる場合があるが、無免許運用による違反として摘発されたケースはあまり例がないようだ。
個人投資の場合、売買が業としておこなわれているかどうかを見極めるのが難しいのが理由の一つ。たとえばマンションを購入後、転勤などの事情ですぐに手放すといったことは現実的にあり得る。
ただし、短期間で多くの物件を売買するなど明らかな収益目的の場合は、無免許営業として罰せられる可能性もある。収益の金額や売買の回数は法律で定められているわけではなくグレーゾーンとなっているのが現状のようだ。実際に摘発されたという話がないため、個人投資なら宅地建物取引業の免許は不要という認識が一般的だが、扱う物件が多い場合は注意してほしい。
不動産投資で宅地建物取引業法を学ぶメリット
個人投資の場合、あまり重要視されない宅地建物取引業法関連の資格だが、勉強するメリットはたくさんある。宅建士の資格を取るのがベストだが、勉強するだけでも十分メリットがある。
結果的に投資で利益を上げることにもつながりやすいため、余裕があるなら勉強するのも良いだろう。メリットを一つずつ見ていこう。
投資選択の幅が広がる
宅建業に関する勉強をして資格を取得しておけば、将来の不動産投資についてさまざまな選択肢が広がる。たとえば最初は副業として個人投資から始めて、軌道に乗ったら宅建業者として免許を受けて開業することもできる。
将来不動産投資を本業にすることを考えている方は、早めに勉強を始めて損はない。
宅地建物取引業の免許がない場合は売買を不動産業者に仲介してもらうため手数料が発生するが、自ら取引を行えばかからない。知り合いの売買を仲介して、仲介手数料として利益を上げるという選択肢もあり得る。手段が増えることで結果的に収益効率の向上が期待できるので、投資事業を拡大しやすくなるだろう。
法規制など物件価値の判断がしやすくなる
不動産投資で収益を上げるために欠かせない物件価値を正確に把握しやすくなる点も大きなメリットだ。不動産物件には建築基準法や条例で定められた法規制があり、資産価値に影響する要素も少なくない。
用途地域や北側斜線などの高さ制限、全面道路などの周辺環境の影響なども把握すれば、物件の価値を正確に判断して損を防ぎやすくなる。
また、ローン残債がある物件の抵当権や、建物の不具合をカバーする瑕疵担保責任なども理解できるようになり、取引をすべきかどうかの判断精度が向上するだろう。
取引内容を理解しやすくなる
不動産取引に欠かせない重要事項説明だが、不動産の知識が無いと内容を理解しにくい点も多くある。賃貸物件の重要事項説明の際、内容を理解するのに時間がかかったことは無いだろうか?
宅建士の試験には、宅地建物取引業法の他に民法や借地借家法等の不動産関連の知識が問われるため、これらの知識があると内容をしっかりとチェックできて、不利な条件の見逃しを防げることができる。
また、交渉時と違う条件が乗っていたり、漏れがあったりしても察知することができる。宅建士の資格を取るに至らなくても、宅建士の勉強をするだけでも十分なメリットがあるといえるだろう。
取引相手からの信頼度が上がる
不動産物件の売買では、仲介の不動産会社や売り主と直接交渉することも少なくない。宅建資格を持っていれば不動産取引に関する知識の保証になり、取引相手からの信頼度アップにつながる。また、足元を見られて不利な条件を提示されることを防ぐ効果も期待できる。
取引価格や条件などにも説得力が生まれるため、交渉が有利に働くかもしれない。意外なメリットだが、交渉においてはプラスになることが多いため、勉強して損はないといえるだろう。
宅建業者になるには
宅建業の免許を取得し、事業として不動産売買するためにはまず宅地建物取引士の資格保有者を確保する必要がある。
宅建士の資格は需要が高く人気だが、合格率は15%前後と難易度は高めだ。宅建業者になるための第一歩であり、最もハードルが高い宅建士資格を確保する方法は「自分で取得する」「資格所持者を雇用する」の2パターンがある。それぞれ詳しく見ていこう。
自分で宅地建物取引士の資格を取得する
宅建士資格を自分で取得するのは最も確実な方法だ。試験は一般財団法人不動産適正取引推進機構が、毎年1回10月に開催している。申し込み締め切りは7月で合格発表は12月となっていて、受験を決めてから資格取得までの目安は半年程だ。
不動産投資を事業化するタイミングが決まっている場合、逆算していつまでに申し込めばよいか計算しておこう。
試験は四択問題が50問で、土地の形質や建物の構造、建築関係の法令や税金についてなど多岐にわたる。前述したように合格率は決して高くなく、出題範囲も広いためしっかりと時間を確保して勉強しないと合格は難しいだろう。
1:土地の形質、地積、地目及び種別並びに建物の形質、構造及び種別に関すること。
2:土地及び建物についての権利及び権利の変動に関する法令に関すること。
3:土地及び建物についての法令上の制限に関すること。
4:宅地及び建物についての税に関する法令に関すること。
5:宅地及び建物の需給に関する法令及び実務に関すること。
6:宅地及び建物の価格の評定に関すること。
7:宅地建物取引業法及び同法の関係法令に関すること。
勉強方法としては参考書を使った自主学習・WEBテストなどを使った通信教育・資格学校の3パターンが一般的だ。それぞれメリット・デメリットがあるので、ご自身のライフスタイルに合った方法を選ぼう。
①参考書・問題集による自主学習
宅建士は人気のある資格のため、書店や通販でも手軽に参考書が手に入る。自主学習は仕事のすき間時間などを有効活用できるため、取り組みやすい点がメリットだ。また、複数の参考書や問題集を購入しても教材費が安く抑えられる点もうれしいポイントである。
デメリットとしては、一人で取り組むのはモチベーションを継続しにくい点だ。また、わからない点を自力で解決しなければいけないのもハードルが高いといえるだろう。同僚や友人など、身近に資格を取りたい人がいれば、声をかけて一緒に勉強するといいかもしれない。
一番取り組みやすくリーズナブルな方法だが、しっかり取り組むには強い意志が求められる勉強方法である。
②通信教育
インターネットや郵送物を使った独自のカリキュラムで勉強をすすめる通信教育も、たくさんの会社が展開している。DVDやインターネット動画を使って講義を聞くように進められることが多く、テキストだと頭に入りづらい方にとってメリットが大きい。
会社やプランによっては、マンツーマン授業や講師への質問サービスが付いていることも。パソコンのほかにスマートフォン対応しているサービスも増えているため、参考書学習のようにすき間時間を活用できるのも良い。
参考書の自主学習をバージョンアップしたような取り組み方だが、かかる費用は少し高くなる。後述する資格学校と参考書学習のちょうど中間の勉強方法といえる。
③資格学校
実際に教室に出向き、学校の授業と同じように勉強を進める資格学校は、決まった時間に衆人環境で勉強する確実性が大きなメリットだ。自宅だとなかなか集中できないという方にとってはおすすめの選択肢といえるだろう。常に講師が居るため、わからない部分をリアルタイムに解決できる点も利点である。
デメリットは費用の高さと、時間を確保する大変さの二点だ。選ぶ学校やコースによって異なるが、一般的に10~30万円程度の授業料・テキスト代がかかる。
また、毎週決まった時間に教室に行かなければならないため、仕事をしながら取り組むのはなかなか大変だ。会社に事情を話して就業時間を調整してもらう、通勤途中の学校を選ぶなど工夫しよう。
少しハードルは高いがその分しっかり取り組むことができるため、確実に合格を目指す方に向いている勉強法だ。
宅地建物取引士の資格所持者を雇用する
もし、一人ではなく従業員を雇用する予定があるなら、宅建士資格の所持者を雇う方法でも専任の宅建士を常置させることはできる。宅建業免許は5人に1人以上の割合で宅建士が居れば問題ないため、開業者本人は無資格でも大丈夫だ。
ただし、従業員は家庭の事情などで退職してしまう事も考えられる。資格者が居ない状態で不動産取引をすると違反になってしまう。業務が止まってしまうことも考えられるため、開業後少しずつでも勉強して代表者の方も資格を取得するのが良いだろう。
また、事業所の宅建士は専任の方を雇用すると決められているため、非常勤や名義貸しといった雇用方法は認めらない。専任性の線引きについては詳しく決められていないが、万が一免許取り消しになっては大変だ。基本的に正社員として常勤の宅建士を雇用しよう。
宅建士資格と不動産投資の勉強どちらを優先すべきか
これから不動産投資に取り組む際、本業の傍ら副業として始めようとしている方が多いのではないだろうか?限られた時間の中で投資の勉強と資格の勉強を両立させるのは難しいケースも多いだろう。その場合どちらを優先すべきか悩ましいところだ。
前述したように宅建士の資格が無くても不動産投資をスタートさせることはできる。逆に宅建士の資格を取っても、不動産投資の知識が皆無では利益を上げることは難しいだろう。
同時進行で両方勉強するのがベストだが、難しい場合はまず不動産投資の勉強から始めるべきだ。
投資を始めて実際の取引を体験した後の方が、宅建士資格の勉強も効率よく進められる。取引や日々の業務で疑問に思ったことを調べれば、投資活動にもプラスになり相乗効果が生まれる。
まとめ
今回は不動産投資と宅地建物取引業の関係性について解説した。
個人不動産投資において宅地建物取引士の資格は必須ではないが、持っているとさまざまなメリットがある。勉強するだけでも日々の投資活動に大いに役立つので、余裕があれば積極的に勉強してみよう。
この記事が不動産投資の第一歩としてお役に立てれば幸いだ。