不動産投資で重要なことは利益をあげることである。不動産投資においても「損益分岐点」があり、十分に理解することで収益が見込める物件を見定めることができる。
今回は不動産投資における損益分岐点について解説させていただく。損益分岐点の基本から、運用時や売却時の損益分岐点、その具体的な計算例まで明示する。
ぜひ参考にしていただきたい。
目次
損益分岐点とは
損益分岐点とは、売上高が黒字にも赤字にもならない売上高の値である。売上高と費用のバランスの中で、利益も損失も出ないポイントであり、損益分岐点を超える売上を確保すれば利益が発生し、損益分岐点を下回る売上だと損失が発生する。
不動産投資の場合、売上高は家賃収入や礼金である。費用は管理委託料や不動産投資ローンの支払額、管理委託費などだ。
不動産投資ローンの支払額については、損益分岐点を算出する際には必要だが、経費と認められるのは、金利部分だけであることを再認識しておくと分かりやすくなる。
不動産投資において売上高をアップさせる方法は、空室率の減少や入居者の入居年数を長くする施策である。費用を削減する方法は綿密な資金計画の策定であるが、ローンの完済が最も損益分岐点を下げる要因になる。
不動産投資における損益分岐点は2つ
不動産投資における損益分岐点は2つある。
1つは、投資した不動産を運用する「運用時の損益分岐点」であり、もう1つは取得した不動産を売却する場合の「売却時の損益分岐点」である。ここでは、それぞれについて解説させていただく。
運用時の損益分岐点
不動産投資における運用とは、ほとんどが家賃収入である。運用時の費用とは、管理委託料や修繕費などの経費と、不動産投資ローンの返済だ。不動産運用時の損益分岐点は、家賃収入などの収入合計と、運用時の支出費用が同じ金額の場合となる。
家賃収入は入居率によって変動するため、損益分岐点を上回るための入居率を知っておく必要がある。その入居率は次の式で算出される。
例えば、毎月の費用が250万円で、満室時の家賃収入が300万円の不動産投資物件であれば、損益分岐点の入居率は次のようになる。
250万円÷300万円×100=83.33%
この物件では、約83%の入居率を上回れば利益を出すことができ、下回れば赤字となる。
売却時の損益分岐点
不動産投資で得られる収入は運用時だけではなく物件の売却時にもある。従って不動産売却時にも損益分岐点がある。不動産投資は運用だけではなく売却まで含めた総合的な損益を考える必要がある。
不動産売却の損益分岐点は、単純に考えれば対象物件を取得した費用と売却収入が同じ金額であることだ。これは不動産売買目的による収益の損益分岐点であり、一般的な不動産投資での売却時の損益分岐点を求める方法とは異なる。
不動産投資で取得した物件を、運用した後に売却する場合の損益分岐点を算出する方法は次のようになる。
・運用時の支出と売却時の支出、購入時の支出を合計した支出を算出する。
・運用による家賃収入などの収入と、売却時の売却収入を合計した収入を算出する。
支出の合計と収入の合計が同じである場合の金額が、不動産投資の売却時の損益分岐点ということだ。計算式は次のようになる。
収入合計が支出合計を上回れば、その分だけ収益を得たことになる。不動産売却時の損益分岐点は、収入や支出を総合的にまとめて、損益分岐点を算出すると算出しやすくなる。精度の高い損益分岐点の算出ができれば不動産売買による損失を軽減できるだろう。
不動産投資における損益分岐点のポイント
不動産投資における損益分岐点を算出したり、検討材料に加えたりする際には2つのポイントがある。
【ポイント1】マイナス分を加える
不動産投資は、不動産を購入することから始めるため、家賃収入に相当する売上高がない状態で支出を計上するのだ。つまり、マイナスからのスタートになるため、損益分岐点を算出するにあたり、マイナス分を加えなければ実態の数字とはならない。
【ポイント2】支出は変動する
不動産投資では支出の変動が多いことにも注意が必要である。設備の故障などは予測を立てることが難しいため、修繕費はいつ発生するのか分からない。しかし、修繕費が発生すれば損益分岐点は上がることになる。資本的支出であれば、減価償却費となるため損益分岐点が一気に跳ね上がることはないが、それでも通常の損益分岐点よりも高くなることに間違いはない。
変動要素を先読みすることは難しいが情報や耐用年数、経験値などを加えて制度の高い損益分岐点の計算をすることで、対象物件の利益を確保できるだろう。支出以外にも将来的な物件の価値低下や入居率の低下も考慮する必要がある。
不動産投資における損益分岐点の計算例
不動産投資の損益分岐点の計算はわかりにくい点も少なくない。ここでは運用時と売却時の計算例を紹介する。
損益分岐点の計算例の条件:1棟売りマンションで投資期間10年
購入価格 | 1億円 |
借入金額 | 7,000万円 |
融資条件 | 金利2%・返済期間30年 |
融資返済金額 | 26万円/月(年間310万円) |
10年後の元金残高 | 5,114万円 |
表面利回り | 7% |
年間諸経費 | 180万円 |
購入時諸経費 | 600万円 |
売却時諸経費 | 600万円 |
この数値を基に、運用時と売却時の損益分岐点を算出する。
運用時の計算例
不動産運用時の損益分岐点は運用益が0円である。1億円のマンションで表面利回りが7%なので、年間の家賃収入は700万円だ。
不動産運用時に重要なのは前述したが、損益分岐点となる入居率である。このマンションのケースを先程の計算式に当てはめると、運用時の支出は返済額が年間310万円であり、年間の諸経費が180万円なので490万円だ。
表面利回りが7%なので年間の家賃収入は700万円であるため、計算式に当てはめると次のようになる。
490万円÷700万円×100=70%
この物件の損益分岐点に相当する入居率は70%だと算出できる。つまり、入居率を70%以上確保できる施策を講じれば、常に黒字が期待できる物件といえるのだ。
売却時の計算例
売却時の損益分岐点の算出は運用時よりも複雑である。まずは損益分岐点の算出に必要な数字を洗い出そう。この物件の10年間の収入は、表面利回りが7%なので7,000万円である。
10年分の支出は10年間の融資返済額が3,100万円であり、10年分の諸経費が1,800万円である。支出合計額は購入時の費用である600万円と売却時に費用である600万円が加算される。残債は、5,114万円あるため、支出部分の合計は1億1,214万円となる。
支出合計1億1,214万円から収入合計7,000万円を差し引くと、売却時の損益分岐点は4,214万円だ。つまり、1億円の物件に出資し、10年後に4,214万円以上で売却できれば、総合的に利益がでることになる。不動産投資は、賃貸事業と売買事業のバランスが重要である。
損益分岐点からみる優良物件の条件
損益分岐点を算出できれば、損益分岐点の観点から優良な物件の条件を見いだせる。損益分岐点が低い位置にある物件は、利益を出しやすい物件といえるのだ。
入居率が低くても利益がでる物件で資産価値も落としにくければ、長期にわたって安定した収入を得られるだろう。
ここでは、具体的にどのようなどのような物件が、損益分岐点の観点から見る優良物件であるのかを解説する。
将来性の高い土地
将来、必ず値上がりする土地を探し出すことは簡単ではないが、将来にわたって価値が落ちにくい物件であれば、売却時の損益分岐点が低い物件に相当する。大型ショッピングセンターができたり、高速道路が通ったりする土地を事前に購入することは不可能である。
しかし、主要な駅に近いマンションや大学に近い物件を見つけることは難しくない。将来にわたって需要が見込まれる土地が、将来性の高い土地なのである。
災害にあいにくい物件
不動産投資では、災害リスクを優先して物件を検討するのが一般的である。災害リスクが低ければ低いほど、資産価値は低下しにくいのだ。ハザードマップを確認して、災害リスクが少ない物件を選ぶことはもはや常識となっている。
ハザードマップで確認できない災害は地震と台風や竜巻・突風である。地震は、活断層を調べることができるためある程度回避できる。しかし大地震が発生すれば、活断層に関係なく大きな被害を受ける可能性もあるため、新耐震基準や2000年耐震基準に適合しているかを確認することも大切だ。
台風や竜巻・突風などは、どこで発生するか予測ができないため、普段の備えが必要である。雨戸の確認や割れやすいガラス窓を、割れにくい複層ガラスへ交換するなどの対策を講じるべきである。入居者の安全を考慮した物件であれば、それが大きなアピールポイントになり入居率を上げられるだろう。災害リスクが低く、入居率が高い物件は価値も下がりにくくなるのだ。
空室リスクが低い物件
空室リスクは不動産投資において避けられないリスクである。損益分岐点の入居率を最低ラインに設定して、施策を施せば空室による赤字を回避できるだろう。空室リスクが低い物件は、家賃下落リスクも低くなる。収益を上げるためには空室リスクとなる要因が少ない物件を選ぶことが重要だ。
まとめ
損益分岐点は、売上高と費用が同額であり、利益も損失も出ないポイントのことである。不動産投資における損益分岐点は、損益分岐点となる入居率と売却時の損益分岐点が重要だ。運用益を追い求めるだけでなく、売却益も加えたトータル的な判断が求められる。
不動産投資では各種の利回りを重視する傾向があるが、損益分岐点の観点からみる指標も重要である。損益分岐点の視点で見る優良物件を判断基準に加える事によって、リスクが少なく継続的な収益が見込める物件を見出だせる可能性は高くなるだろう。