契約期間の定めがある定期借家契約はオーナーにとってのメリットが大きく、賃貸経営で覚えておきたい選択肢の一つだ。
デメリットもあるが、地域特性や物件のコンセプトとうまくマッチさせれば、競合と差別化して安定経営も目指せる。
この記事では定期借家契約の基本的な仕組みと、大家側のメリット・デメリットについて詳しく解説する。
目次
定期借家権とは
事前に定めた契約期間で更新をせず満了する賃貸契約のことを、定期借家契約と呼ぶ。
一般的な普通借家契約は、借主が継続して住むことを希望している場合、貸主に正当な理由が無ければ更新の拒絶はできない。
普通借家契約は借主にとってメリットは大きいが、オーナーとしては契約期間の予測が立たず有効活用しにくい面もある。
そこで平成12年に定期借家制度が施行された。定期借家契約は契約期間がはっきり決まっているため、収益予測やその後の運用計画も立てやすい。
契約期間の設定
定期借家権の契約期間には制限がなく、契約者同士の合意があれば自由に設定することができる。
普通借家契約では一年未満だと「期間の定めの無い契約」になるが、定期借家契約なら1年未満の設定も可能だ。
中途解約できるか
定期借家契約は原則として中途解約できない。
ただし床面積200㎡未満の住居の場合、賃借人に転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情がある場合中途解約が認められる可能性がある。
また契約時に、やむを得ない事情以外でも賃借人が中途解約できる旨の特約をすることもできる(なお、特約でも建物の賃借人に不利なものは無効となる)。
再契約・更新について
定期借家契約は契約期間満了した時点で契約終了となり、更新はできない。
ただし借主と貸主双方の合意があれば、契約終了時に再契約を結んでそのまま住み続けることは可能だ。
定期借家権による大家のメリット
運用計画を立てやすい
契約期間の定めがある定期借家契約は、収益予測や運用計画を立てやすい点が大きなメリットだ。
例えば1年間だけ貸し出してその後自宅として活用するなど、普通借家契約だと難しい綿密な計画を立てられる。
また中途解約の可能性が低いため、いきなり空室になり家賃収入が途絶えるリスクも少ない。
取り壊しや売却したいのに最後の入居者が残ったままで、赤字状態が続くといった状況が無いのも魅力的なポイントだ。
入居者トラブルに長期間悩まず済む
騒音やゴミ屋敷などマナーの悪い入居者に対し、契約更新を拒否して問題解決できるのも定期借家契約のメリットだ。
法律では賃借人の権利が保護されているため、周囲に迷惑をかける入居者を強制退去させることは難しい。契約解除できないわけではないが、かなりの時間と費用が掛かるため賃貸オーナーにとって悩ましい問題だ。
しかし定期借家契約ならあらかじめ決められた契約期間で退去してもらえるので、入居者トラブルが長期化するリスクは低い。
短期貸などで競合と差別化できる
普通借家の契約期間は1年以上で通常は2年に設定されることが多く、短期契約を設定できる定期借家契約は差別化できるのもメリットと言える。
例えば一般的な賃貸住宅は、建て替えやリフォームによる仮住まいには使用できないことが多い。
地域に定期借家物件が少なければ、こうした短期賃貸ニーズを効果的に集客できる可能性がある。
近くに学校や企業が多く、単身赴任や学生が多いエリアなど、短期ニーズが多いなら競合と差別化するメリットは大きいだろう。
定期借家権による大家のデメリット
入居者が集まりにくい
定期借家契約は一般的な賃貸住宅を探している人にとってメリットが少ないため、入居者を広く集めるのには不向きと言えるだろう。
一般契約では難しい短期目的ユーザーは集めやすいが、逆に長期間借りたい人の検討から外れてしまう可能性が高い。
エリア特性に合わせた運用や告知方法の工夫をしないと、入居率を高く保つのは難しいかもしれない。
家賃を高く設定できない
定期借家は高い家賃を設定しにくいため、大きな収益は期待できない点もデメリットだ。
普通借家契約だと難しい出張・建て替えなどの仮住まいとして探すユーザーが多く、相場より高いと検討から外されてしまう可能性が高い。
また法律上の定めはないが定期借家は礼金なしの物件が多く、設定しても減額交渉されてしまうケースが多いようだ。
長期契約が期待できない
前述したように定期借家契約の対象ユーザーは短期利用がメインになるため、普通借家契約のような長期契約が期待できない点もデメリットだ。
両者合意の上で再契約することは可能だが、学生や出張など期間が決まっていると期待はできないだろう。
短期間で入居者が入れ替わるため、原状回復や入居者募集にかかるコストは大きくなる。
次の入居者が決まらない期間が長くなると、安定した収益を上げるのは難しい。
定期借家権の契約注意点
公正証書などの書面が必要
定期借家契約は公正証書などの書面を交わすことが必須となっていて、口頭による契約は無効となる恐れがあるので注意が必要だ。
書面には契約期間と更新が無いことを明記し、賃借人に対して説明してから契約を結ばなければならない。
口頭のみで書面を交付しなかったり、必要事項が明記されなかったりすると、普通借家契約とみなされてしまう。
事業用定期借地権は公正証書による契約が必要だが、居住用の定期借家権は一般的な契約書でも契約可能だ。
1年以上の契約期間は終了通知をする
期間が1年以上の定期借家契約について、賃借人は期間満了の1年前から6か月前の間(通知期間)に、賃借人に対して終了通知をしなければならない。
終了通知を怠ると、オーナーは賃借人に対して契約終了を主張することができない。つまり契約期間が過ぎても明け渡しを求められないということだ。
通知期間を過ぎて終了通知をした場合、通知の日から6か月経過すれば契約終了を主張することができる。
通知手段は口頭でも可能だが、トラブル防止のために配達証明付きの内容証明郵便などで証拠を残しておくのが良いだろう。
なお契約期間が1年未満の場合は終了通知の必要はない。
定期借家権の評価額は
定期借家として運用している不動産物件を親から相続した場合、評価額は普通借家と変わらない。
一般的な賃貸住宅を相続する場合と同じような相続税対策効果と考えて良いだろう。
まとめ
賃貸住宅市場において定期借家契約は少数派であるが、うまく活用すればニッチなニーズを狙い撃ちできる可能性はある。
賃貸経営における選択肢のひとつとして覚えておけば、役に立つことがあるかもしれない。
メリット・デメリットをしっかり把握し、物件やエリアの特性に合わせて比較検討してみてほしい。