賃貸経営において、退去者の残置物は頭を悩まされるトラブルの一つである。
退去者が無断で残していったものだとしても勝手に処分することができず、費用や手続きの問題もある。
今回は賃貸物件の残置物処分について、手続きや処分の方法について詳しく解説する。
目次
残置物とは
退去者が貸主の了承を得ず、勝手に残していったもの全般を残置物(ざんちぶつ)と呼ぶ。
よくある残置物の例としては、借主自身が設置したガスコンロや照明器具、エアコンなどが挙げられる。
設備によっては取り外しや処分に費用が掛かることもあり、「次の入居者が使うだろう」と考えて残していくケースが多いようだ。
また近年は高齢の方が入居中に亡くなり、相続する親族が見つからないまま残置物が発生してしまうケースも増えている。
入居者が家具を置いたまま夜逃げをしてしまったようなケースも、残された物は残置物となる。
残置物の処分には同意書が必要
どのような経緯で残置物が発生した場合も、オーナーが勝手に処分することはできない。
前の入居者が残置物の所有権を明確に放棄していない場合、勝手に処分するとトラブルに発展する恐れがある。
場合によっては所有権侵害などの訴えを起こされる可能性もあるので、必ず前入居者や相続人の同意を得てから処分する必要がある。
家賃滞納による夜逃げなど相手に落ち度がある場合の残置物も、勝手に処分せず必ず後述する手続きを踏んでいただきたい。
残置物を処分するための手続き
残置物所有者に連絡を取る
まずは残置物の所有者である退去者に連絡を取り、処分して良いかどうかの確認をするのが第一歩だ。
連絡が取れたら所有権放棄の合意書を作成するのが理想的だが、難しい場合は電話でのやり取りを録音するのもいいだろう。
所有権放棄の合意が取れれば、残置物をオーナー自身で処分したり、専門業者に依頼したりするのもスムーズになる。
保証人に連絡を取る
残置物の所有者本人に連絡が付かない場合、入居時に設定した保証人に連絡を取り処分について意向を確認する方法もある。
保証人に処分してもらうことはできないが、保証人から所有者本人に連絡をしてもらったり、所有者との関係では保証人が責任を負うということで処分することに同意してもらったりする方法が考えられる。
保証人に連絡を取る際は、処分方法や費用負担についてもあらかじめ話しておいた方が良いだろう。
法的手続き
本人・保証人ともに連絡が取れない場合は、厳密には、法的手続きを踏んで残置物を処理する必要がある。
基本的には、物件内に賃借人の動産等が残置されている限り物件の占有利用を継続していることになるので、賃貸借契約が終了したことを理由とした建物明渡請求や、動産(残置物)の収去請求を裁判所に提起し、強制執行という流れになる。
手続き完了から強制執行までは時間がかかるので、この段階ではスピード感を持って取り組み、なるべく早く次の入居者を受け入れられる体制にしたい。
明け渡し訴訟についてはこちらの記事でも解説している。
不動産物件の明け渡し訴訟にかかる期間と手順|和解などほかの方法も
残置物の処分方法
借主自身に処分させる
費用や手間のことを考えると、退去した借主自身に残置物を処分させるのが理想的といえる。
残置物は本来借主が退去時に処分すべき物なので筋が通っており、費用の立て替えや請求といった手間もかからない。
ただし借主の都合に任せていると、いつまでたっても部屋が片付かず次の入居までの期間が伸びてしまうことも考えられる。
必ず期限を設け、オーナー自身も立ち合いの上で確実に残置物を処分してもらえるよう計らうべきだろう。
オーナーが自分で処分する
借主自身が処分に同意しつつも、借主に処分させるのが難しい場合、オーナー自身が残置物を撤去・廃棄するのも一つの方法である。
オーナー自身で一般廃棄物として残置物を処分できるのであれば、費用面でもメリットがある。しかし、家電リサイクル法の対象になるものは注意が必要だ。
一般廃棄物、つまり粗大ごみとして処分できるのであれば、自治体に予約をして回収してもらったり、ゴミ処理センターに自分で持ち込んだり、処分方法も選べるだろう。
費用を抑えられるので立て替えの負担が少なく、万が一請求できない場合もありがたい。
残置物処分業者に依頼する
なかなか時間をとるのが難しい場合は、残置物処理の専門業者に依頼するのも一つの手だ。
夜逃げや入居中亡くなったケースなど、大型の家具家電が残っている場合はプロに任せた方が負担は少ない。
処分費用は業者によって異なり、部屋の広さや立方メートル(㎥)あたりの単価が目安になることが多い。ただし残置物の種類や量、運び出しの距離などによっても変動するので、正確な見積もりを取った方が良いだろう。
価格が安すぎる業者は不法投棄しているケースなどもあるため、廃棄物収集運搬業許可を持っている業者を選ぶようにしたい。
残置物処分の費用
どのような方法の場合も、残置物処分にかかった費用は所有者自身に支払う義務がある。
ただし、夜逃げなどのケースでは残置物所有者に連絡が付く可能性は低い。
その場合は保証人に連絡を取り、処分にかかった実費を請求するのが一般的だ。
しかし実際は退去者・保証人どちらにも連絡が付かないケースが多く、オーナーが処分費用を負担せざるを得なくなる可能性も高い。
残置物トラブルを防ぐためにやるべきこと
ここまで解説してきたように残置物が非常にやっかいなトラブルであるため、なるべく予防することが大切だ。
例えば敷金と連帯保証人をしっかり確保しておけば、借主と連絡が取れない場合も手間や費用の負担を軽減しやすくなる。
契約時に「明け渡し後の残置物の所有権放棄特約」を結んでおくのも効果的だ。残置物があるのを知りながら借主が部屋を明け渡した場合、所有権放棄したとみなして処分することができる。
残置物が発生するような状況では、家賃滞納や夜逃げといったトラブルが併発しているケースが多い。
定期的に物件を訪れてみて、異常が無いかチェックするのもトラブルの防止につながるだろう。
まとめ
残置物はオーナーが勝手に処分することはできないため、手間や費用が掛かるやっかいなトラブルの一つだ。
長引くと次の入居者を募集できず、家賃収入がストップするなど被害が大きくなるため、なるべく迅速に対応したい。
予防と対策をしっかり立て、万が一の時に備えていただきたい。