「都内で新築物件を建てようと思い土地を探しているが、収支が合いそうな安い土地は旗竿地ばかり。しかし旗竿地では建築に大きな制限があるらしく、実際にプランを入れると収支は全く合わないようだ。。。」
このような経験は無いだろうか?旗竿地は整形な土地に比べて低い価格で取引される。それは土地の有効活用がしにくいことが主な原因であるが、その背景には東京都の条例が大きく関係している。今回はこの条例を解説しつつ旗竿地の攻略方法についても解説する。
目次
旗竿地及び路地状敷地の定義とは?
旗竿地とは建物敷地が路地状部分によってのみ接道(道路に接する)する敷地のことを言う。東京都安全条例では路地状敷地と名付けている。このような敷地は採光や通風などの住環境、そして災害時の避難等に悪影響があるため条例で厳しい規制が定められているのだ。
但し、全ての地域共通ではなく、計画地の行政によって異なる。東京都や横浜市など人口密度が高く、上記問題が発生し易い地域では条例で規制を定めている。今回は東京都建築安全条例を基に説明をしていく。
路地状敷地の形態の制限とは?
東京都建築安全条例 第三条
(路地状敷地の形態)一.建築物の敷地が路地状部分のみによって道路(都市計画区域外の建築物の敷地にあつては、道とする。以下同じ。)に接する場合には、その敷地の路地状部分の幅員は、路地状部分の長さに応じて、次の表に掲げる幅員以上としなければならない。ただし、建築物の配置、用途及び構造、建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める場合は、この限りでない。
敷地の路地状部分の長さ 幅員
20m以下のもの 2メートル
20mを超えるもの 3メートル二.耐火建築物及び準耐火建築物以外の建築物で延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合は、それらの延べ面積の合計とする。)が二百平方メートルを超えるものの敷地に対する前項の規定の適用については、同項の表中「2メートル」とあるのは「3メートル」と、「3メートル」とあるのは「4メートル」とする。
建築基準法(建築基準法43条1項)では建築物の敷地は道路に2m以上接していなければならないと定められている。一方、東京都建築安全条例では上記一項に於いて路地状となる部分についても安全上及び防火上の観点から、その長さに応じて必要とする幅員を定めている。下記図を参照して頂きたい。
また但し書きで記載しているように、一定の条件を満たし、知事が安全上問題が無いと認める場合は適用されない。その条件を具体的に解説する。
「建築物の配置」
建築物の敷地内の配置上の工夫。例えば隣地との距離を十分に確保した計画など。
「用途及び構造」
不特定多数人が出入りしない用途のこと。例えば専用住宅など。
「建築物の周囲の空地の状況」
建物の高さ及び階数を抑えたものや耐火建築物など防火性能が高い構造のもの。
「土地の状況」
建築物の敷地が公園などの土地と接続している敷地外の状況。
「周辺の状況」
建築物の敷地周辺の市街地状況をいい、道路状況や建物の密集の度合いなどの地区特性の状況のこと。
二項では耐火建築物や準耐火建築物以外の防火性の低い建物で、200㎡を超えるものについては安全性を考慮し、幅員の制限をより厳しくしている。
路地状敷地での建築制限とは?
では路地状敷地では具体的にどのような建築の制限があるのか?東京都建築安全条例第三条の二で規定されている。
東京都建築安全条例 第三条の二
(路地状敷地の建築制限)第三条の二 前条第一項に規定する敷地で路地状部分の幅員が四メートル未満のものには、階数(主要構造部が耐火構造の地階を除く。第七条において同じ。)が三(耐火建築物、準耐火建築物又は壁、柱、床その他の建築物の部分及び外壁開口部設備(令第百三十六条の二第一号イの外壁開口部設備をいう。以下同じ。)について知事が定めた構造方法を用いる建築物の場合は、四)以上の建築物を建築してはならない。
条文によると路地状部分の幅員が4m未満となる場合、基本的には3階以上の建物を建てることはできない。(実質2階建て迄)商業地域等で容積率が高いエリアでは容積を消化することができないため、土地の価値が圧倒的下がってしまう。
耐火建築物及び準耐火建築物の場合は4階以上の建物を建てることができないので、実質3階迄建てることはできる。用途に限らず全ての建物に適用される非常に厳しい内容となっている。
路地状敷地で特殊建築物を建てることはできるのか?
特殊建築物とは多数の人が集う建築物や衛生上・防火上特に規制すべき建築物で、収益物件として計画される、共同住宅やシェアハウス、飲食店、物品販売店舗なども含まれる。(事務所は特殊建築物では無い)
この特殊建築物を路地状敷地で建築する際には、東京都建築安全条例第十条では非常に厳しい基準が定められている。条文を記載する。
東京都建築安全条例
(路地状敷地の制限)第十条 特殊建築物は、路地状部分のみによつて道路に接する敷地に建築してはならない。ただし、次に掲げる建築物については、この限りでない。
一 路地状部分の幅員が十メートル以上で、かつ、敷地面積が千平方メートル未満である建築物
二 階数が三以下であつて、延べ面積が二百平方メートル以下で、かつ、住戸又は住室の数が十二を超えない共同住宅で、路地状部分の長さが二十メートル以下であるもの
三 前条第六号又は第十三号に掲げる用途に供する建築物で、その敷地の路地状部分の幅員が四メートル以上で、かつ、路地状部分の長さが二十メートル以下であるもの
四 前三号に掲げるもののほか、建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める建築物
(昭三五条例四四・昭三六条例四五・昭四七条例六一・平五条例八・平一一条例四一・平二七条例三九・一部改正)
記載の通り、路地状敷地では特殊建築物は建てることさえ許されていない。しかし但し書きにて一定条件をクリアできれば建てることは許されている。
例えば、路地状部分の幅員が10m未満で、1000㎡以下の敷地で共同住宅を建てようとする場合、階数は3階以下で延床面積が200㎡以下、そして住戸の数が12戸以下且つ路地状部分の長さが20m以下でなければならない。
注意すべき点としては容積対象面積でなはなく、延床面積が200㎡以下という制限になっている点だ。建築基準法では共同住宅の場合、廊下やEVやエントランスホールなどの共用部は容積対象面積から除外される。つまりその分、専有部分(賃貸可能な部分)が増えるのだが、東京都建築安全条例第十条ではそれができない。
仮にレンダブル比を80%とすると160㎡しか賃貸面積を確保することができないのである。条件としてはかなり厳しく、特殊建築物で土地の容積率を有効的に活用することは困難だ。
路地状敷地の攻略方法とは?
東京都にて路地状敷地に建物を建てる場合に多くの制限がかかることはご理解頂けたかと思う。折角、安く手に入る土地を有効活用できないのはもったいない、解決方法はないだろうか。
その前に、路地状敷地の定義について改めて整理してみる。行政や指定確認検査機関に確認すると、概ねこのような回答となるはずだ。「路地状敷地とは道路側からその敷地を見て見渡せない部分(死角)となる部分がある敷地のこと」下記図を参考に頂きたい。
上記図を見て頂ければわかる通り、見渡せない部分がなければ路地状敷地では無い。解決方法としてよく検討されるのが道路側の土地を買収する方法があるが再現性が低いため敢えて説明はしない。
ここではより再現性が高い方法として、敷地分割について説明する。下記の図を参照頂きたい。見渡せないエリア①と②を分割し、敷地③を建物の敷地とする。これであれば道路側から敷地内の全てを見渡すことができる。
この敷地分割はあくまでも、確認申請上の敷地であるため、実際に土地を分筆する必要はない。もちろん敷地の形状によっては不可能であるケースも多く、何より敷地面積が減少するため、容積対象面積が減少してしまうデメリットも生じてしまうが、それを上回るメリットがあることはこの記事を読んでいただければご理解頂けるだろう。
特殊建築物以外の建物で検討する。
上述した通り、共同住宅やシェアハウスなどの特殊建築物については厳しい規制があるため、特殊建築物に該当しない建物で計画するのも一つの方法だ。住宅系であれば長屋で検討する方法がある。しかし長屋と共同住宅ではプランニングが大きく変化するので注意したい。詳しくはこちらの記事にて確認して頂きたい。
住宅系以外の場合は事務所などが該当する。都心部で事務所のニーズがある場合は検討するのも良いだろう。
まとめ
路地状敷地は整形地に比べ価格が安い。その理由は効率的なプランニングができないのはもちろんのこと、災害時の安全性や良好な住環境の確保という点で、東京都建築安全条例等で厳しい規制が定められているからだ。
しかし、この規制について詳しく理解している不動産投資家は多くは無い。
また、今回の攻略方法を含め路地状敷地の活用方法はまだ存在する。安く仕入れることが不動産ビジネスの王道であることは言うまでも無いが、そういった土地にめぐり合う機会は頻繁には無い。
しかし、路地状敷地は市場には多く出回っているし、その中には活用方法について十分に検討されずに安く売り出されているものも多く存在する。ネガティブな要素が多い路地状敷地であるがしっかりとした知識を身に付ければ取り組む価値は十分にある。