「所有物件の屋根が台風で破損してしまった。火災保険は自然災害による損傷でも活用できると聞いたが今回の場合は適用されるだろうか。。。」
火災保険は一般的には火事で建物が損傷してしまった場合に補償される保険と思われているが、実際にはその他にも多くの補償がある。
具体的には①火災、落雷、破裂、爆発 ②風災、雹災、雪災 ③水ぬれ、④盗難、⑤水災、⑥破損、汚損等となる。しかし、このような知識が無いがために、自己資金で修理をしてしまう方が多いのが現状だ。
賃貸不動産経営にとって、利益を減らしてしまう修繕費は大きな悩みである。これを大きく削減できる可能性があるのが火災保険なのだ。
この記事では多くの補償の中でも不動産投資家が最も被害を受けるが多い②、③、⑥を中心に解説をする。火災保険の補償内容をしっかりと理解して、損することなく賃貸不動産経営に活用して頂きたい。
目次
自然災害による損害(風災、雹災、雪災)
最も多いケースは自然災害(風災、雹災、雪災)が原因による建物の損害だ。ポイントはどのような損害が自然災害によって発生するのかという点だ。
不動産投資家の場合、遠方に物件を所有していることも多く、常に所有物件の状況を目視できるわけでは無いため、実際に損害を発見した時点でそれが本当に自然災害によるものなのか、判断できない場合が多いだろう。
また、重要な点として経年劣化による損害については保険の対象とはならないので注意して頂きたい。
よって、保険申請をするためには、どのような損害が自然災害によって発生するのか?といった知識が必要だ。これは建物の構造によって異なるため、構造別に解説していく。
木造建物の場合
木造建物は他構造に比べて損害を受けやすい。これは耐用年数からもご理解頂けるかと思う。風災や雹災では屋根の被害が多く、雪災の場合は樋の被害が多くなる。わかりやすく表にまとめたので確認頂きたい。
部位 | 被害 |
屋根 | カラーベストの割れ、剥がれ、浮き、棟板金の剥がれや浮き、瓦のズレや割れ |
外壁 | 金属系サイディングの浮き、※窯業系サイディングの場合はあまり被害が無い |
樋 | 軒樋の曲がりや凹み、樋が外れる、縦樋が外れる、縦樋の留め具の外れ、穴があく等 |
付帯設備 | TVアンテナの傾き、太陽熱温水器や太陽光発電の傾き |
鉄骨造の場合
鉄骨造は木造よりも頑丈であるため木造に比べて被害が少ない。
部位 | 被害 |
屋根 | シート防水の剥がれ、金属屋根の凹み(主に雪害)※塗膜防水の場合はあまり被害が無い |
外壁 | 金属系の外壁材の場合、浮きや剥がれが稀にある |
樋 | 軒樋の曲がりや凹み、樋が外れる、縦樋が外れる、縦樋の留め具の外れ |
付帯設備 | TVアンテナの傾き、太陽熱温水器や太陽光発電の傾き |
RC造の場合
RC造は鉄骨造や木造よりも頑丈であるため被害は非常に少ない。
部位 | 被害 |
屋根 | シート防水の剥がれ、金属屋根の凹み(主に雪害)※塗膜防水の場合はあまり被害が無い |
外壁 | 金属系の外壁材の場合浮きや剥がれが稀にある。塗装や装飾の剥がれ |
樋 | 軒樋の曲がりや凹み、樋が外れる、縦樋が外れる、縦樋の留め具の外れ |
付帯設備 | TVアンテナの傾き、太陽熱温水器や太陽光発電の傾き |
水ぬれによる損害
実は火災保険の請求で最も多いのが水ぬれによる被害だ。よく勘違いされることが多いのだが、水ぬれとは雨漏りのことでは無い。
主に給排水管や水栓が老朽化等で損傷したことにより水漏れが発生し、その水が原因で建物が被害を受けた場合となる。
天井、内壁ボードの損傷、フローリング等の床材の損傷、クロス等の仕上げ類の損傷。その他内装材の水を含むことで発生する損傷が補償の対象となる。
雨漏りによる損害は補償の対象となるのか?
先程雨漏りは対象外と伝えたが、あくまでも施工上の問題や経年劣化により雨漏りが発生した場合のケースとなる。
施工上の問題は当然、重大な瑕疵ということで施工会社への請求となるし、経年劣化はいかなるものも補償の対象とはなりえない。
しかし、自然災害により建物が損傷し、それが原因で建物内部が水による被害を受けた場合は補償の対象となる。これは間違い易いのでしっかりと理解しておいた方が良いだろう。
汚損、破損等による損害
こちらは一般的には殆ど知られていない補償内容だ。不測且つ突発的な事故により発生した損害が対象となるが、曖昧な表現でわかりにくい。ポイントはその事故が過失であれば対象となり、重過失の場合は対象外となるという点だ。
過失とは「その事故を回避できるにも関わらず、注意を怠ったために発生した事故」のことだ、わかりやすく言えば「うっかりやってしまった」といった方がわかりやすいだろう。例えば荷物を運んでいてうっかり扉に当ててしまい扉に穴が空いてしまったケースなどだ。
続いて、重過失とは「わずかに注意していれば回避できるにも関わらず、それをしなかったために発生した事故」のこと。わかりやすく言えば「故意」に近い著しい注意の欠如のことだ。
例えばペットが壁を引っ掻いてクロスがボロボロになってしまった場合などが該当する。ペットを室内に入れる時点でそのような状態になることは誰もが予想できるため、損害保険の場合は重過失として扱われるケースが殆どである。
では実際に対象となり得るのはこのような事故だ。
・車が誤って外壁にぶつかり外壁が割れた。
・模様替えで家具移動中に扉にあたってしまい穴が空いた。
・料理中にフライパンを落としてしまいフローリングが焦げてしまった。
保険の申請方法とは?
保険申請で必要となるものは①「申請書類」②「損害を元に戻すための工事見積書」③「損害部分の写真」の3つとなる。①は保険会社に連絡を入れれば郵送で送ってくれる。②については工事会社やリフォーム会社に依頼をして、現地調査をしてもらい見積もりを作ってもらおう。③については現地調査の際に工事会社に写真を撮ってもらえば問題ない。
注意点としては基本的にはこの写真が承認、非承認の判断材料となるため、被害部分がしっかりとわかるように高解像度で詳細がはっきりとわかる鮮明な写真を準備しよう。
2023年10月以降の契約の場合
2023年10月1日以降に火災保険契約をされた場合は、契約内容が大幅に改定され、申請方法も変わったで注意して頂きたい。従前は見積書ベースでの請求が可能であったが、上記以降の契約では実費での請求が基本となった。
つまり損傷箇所の工事を実施した後でなければ申請ができなくなってしまったのだ。非常に使いづらくなってしまったのが現状ではあるのだが、お金がなくてどうしても工事費を先に捻出する事ができない場合や、大災害による被害で緊急で修理をしなければならない場合は特別な対応をしてくれる可能性もあるので保険会社や代理店の担当に相談するのが良いだろう。
申請できる期間とは
保険申請ができる期間は被害が発生した日から3年以内という規定が保険法に定められている。しかし、建物全体を監視カメラで撮影していない限り、損害が発生した日時は正確にはわからない。
この問題を解決してくれるのがgoogleマップだ。もちろん正確な日時はわからないが、概ねの期間は判断できる場合がある。googleマップは2009年頃からサービスを開始している。エリアにもよるが2、3年おきに写真が更新されているので、申請日から3年前以前の写真に対象となる被害が写っていたら補償の対象外となる。
よって被害を発見したらまずはgoogleマップで確認することが望ましい。また、googleマップは道路から映る範囲でしが画像が見れないため、屋根部分については詳細が確認できないの注意しよう。
しかし、大きな災害で被災者がすぐに申請を行える状況では無い場合は、特別な措置がとられる場合もある。例えば東日本大震災などによる被害等は期限を超えて請求できる場合があるので各保険会社に確認すると良いだろう。
申請しても承認されにくい損害とは?
火災保険申請で承認・非承認の判断のポイントは2つある。それは「事故性」と「故意・重過失」だ。最低限の注意をしても避けることが出来ない、事故性の高いものは承認され易い。
例えば自然災害による損傷は当然事故であり補償の対象となる。また、経年劣化による損傷は予測できることであり、事故性が低いため承認されることは無い。また契約者、被保険者、保険金を受取る人の最低限の注意で回避できるような損傷も、故意に近い重過失と見なされ補償されないことが多い。
承認されにくい具体的な事例
・バルコニーの手すりが経年劣化で錆が発生し破損している。
・外壁のシーリングが劣化し雨水が侵入し内壁が濡れて損傷。
・タバコを室内で吸っていたためクロスが変色した。
・施工上の勾配不足で屋上に水が溜まり雨漏りが発生した。
上記に当てはまるような事故に関しては、手続きに割く時間が無駄になってしまうので申請は避けた方が良いだろう。
保険申請が認められなかった場合の対処とは?
申請内容の可否は保険会社に委ねられているため、申請側がどれだけ主張をしても認められないケースもある。納得がいかない場合は、保険会社に連絡をして損害保険登録鑑定人による調査を依頼することができる。第三者的な立場で損害状況をチェックするいわゆる火災保険被害のプロでもある。
そこでも認められず納得がいかない場合は、「そんぽADRセンター」という相談や解決策を提示してくれる機関へ相談するのが良いだろう。
ADRから保険会社に最終的な判断を求めることになる。最初の申請結果はあくまでも保険会社の担当者レベルの判断であるが、ADRを経由した場合は会社としての判断となる。ここでも承認されず、納得のいかない場合は、和解策の検討や裁判という流れになる。
①保険会社に損害保険登録鑑定人による調査を依頼する。
↓非承認
②「そんぽADRセンター」に相談する。
↓
③保険会社が最終的な判断をする。
↓非承認
④和解策の検討or裁判
7.まとめ
火災保険に限らず保険は契約者が申請をしなければ保険金を受取ることができない。保険会社も代理店も「この事故は申請できますよ」とは自ら教えてくれることは無い。
よって契約者自身が補償内容をしっかりと把握することが重要となる。知っているか知っていないかで得られる恩恵が全く異なるといっても良いだろう。
自然災害が多発し先が見えない昨今において、火災保険は賃貸不動産経営において無くてはならないと言っても過言ではない。今回の記事の参照にしてぜひあなたの賃貸不動産経営に役立てて欲しい。