「立地も良いし利回りも十分だ。是非購入したいがもう少し価格が安ければな…」
結局、値下げ交渉が上手くいかず物件を購入できなかった…
このような状況は不動産投資経験者であるあなたであれば何度か経験したことがあるだろう。
本体価格の指値が上手にできれば、利回りの向上だけではなく諸費用の削減にもつながる。また、指値が可能にも関わらず、交渉術がわからないため、販売価格で購入してしまうケースが多いのも現実だ。
その場合、物件価格によっては数千万円以上の損失になることもあるだろう。つまり、指値の交渉術はあなたにとっては必要不可欠なテクニックなのだ。
もし、交渉テクニックやコツがわからないということであれば、その理由は売主側・不動産業者側の立場に立てていないからだ。
ここでは不動産業界に10年以上携わり、仕入れ業務を担当してきた筆者の経験や知識を元に、売主側、不動産業者側の立場や状況を説明することで効果的な値下げ交渉のテクニックやコツを公開する。
目次
売主側の状況を知る
まず初めに、売主側の状況を知ることで指値が可能かどうかを推測していく。
売却理由により売主のニーズがわかる
ご自分が不動産を売却することを想像してみてください。
毎月収入を生み出す不動産を売却するということは、何か大きな理由があると思いませんか?
例えば、
・事業のための資金が必要になった
・経営状況の悪化により売却しなければならない
・相続で取得したが、不動産自体に興味がない
・入居率が悪いためキャッシュフローが合わない
・修繕費が増加してきたためキャッシュフローが合わない
・収益性の高い物件に変えたい
・周辺相場が下がっているため資産としての不安
・減価償却による税務面でのメリットがなくなった
上記のように、具体的な売却理由が分かると売主のニーズが見えてくる。
【現金の確保のための売却の場合】
緊急性が高いことが想定できるため、現金化までの「スピード」が重要であると考えられる。
【相続後の売却の場合】
不動産に興味が無いか、相続税の支払い等の理由による「まとまった現金」が必要であると考えられる。
【資産価値の不安による売却の場合】
周辺の賃料相場や、不動産価格が下がってきていることを感じているため、「赤字にならない」ように売ることが重要と考えられる。
【キャッシュフローの低下による売却の場合】
建物の劣化による修繕費の増加、入居率の低下、賃料の低下によってキャッシュフローが崩れてきていると想定できるため、現状より崩れる前に売却する「スピード」が重要であると考えられる。
以上のように、不動産業者から売却理由をヒアリングすることで売主のニーズが推測でき、相手の状況に合わせた方法で指値をおこなうことができる。
売主の属性を知ることで売却理由を推測する
不動産業者から具体的な売却理由がヒアリングできるとは限らない。
ヒアリングできなかった場合には、売主の属性を知ることで売却理由を推測していく。
売主の属性を知るためには、登記簿謄本を仲介業者から取得することで確認することができる。
例えば、
【不動産会社が売主の場合】
物件が良くても売却をしているのであれば、売却益や利益確定を目的としていると推測できる。
【一般企業が売主の場合】
バランスシートの調整、経営改善、キャッシュフローの低下が推測できる。
会社の状況によって売却理由は様々である。
【個人投資家が売主の場合】
売却益や利益確定を狙ったポジティブな理由と、資産価値の低下やキャッシュフローの低下を原因とするネガティブな理由のどちらも考えられる。
この場合には、物件情報やレントロールを確認することでポジティブな理由かネガティブな理由かを推測していく。
売主の属性と物件の状況を見ることで、おおよその売却理由は推測することができる。
取得時期、取得理由により売却理由を推測する
登記簿謄本から売主の属性を確認し、おおよその売却理由が推測できたら次に物件の取得時期、取得理由と照らし合わせて精度を上げていく。
まず、取得時期と取得理由は登記簿謄本の原因という部分を見ることで確認することができる。
【直近で相続による取得の場合】
相続税対策としての不動産活用が終わったため現金化する、相続税の支払いのために現金化する、不動産運用ができない・やりたくないといった理由が考えられる。
【6年前に売買による取得の場合】
保有期間が5年を超えることで、譲渡所得税が短期の扱いから長期に変わり税率が約半分の20%となる(個人の場合)ため、十分な利益が取れていればポートフォリオの組み変えなどのポジティブ理由と、思ったようなキャッシュフローが得られないため早めに売却しておこうというネガティブな理由が考えられる。
【5年以内に売買による取得の場合】
上記でも記載した通り、取得から5年以内の売却の場合短期譲渡所得税として約40%の税率となるため、緊急性の高い売却理由が考えられる。
・事業用の資金が急遽必要
・キャッシュフローが大きく崩れている
・突発的に現金が必要になった など
他の検討者の状況を知る
売主側の状況をヒアリング、推測できたところで次に他の検討者の状況を把握していく。
販売期間を見ることで需要がわかる
物件情報の公開日や、不動産業者へのヒアリングに販売期間を確認することができる。
直近で公開された物件ではなく、公開から2〜3ヶ月経過している物件は要チェックだ。
公開から数ヶ月経過している物件は、多くの投資家や不動産業者の目に触れた上で売れていない状態なので、現状の利回りや価格では需要が少ないと推測できる。
今までの交渉状況を聞くことで指値への対応がわかる
物件情報の公開から数ヶ月経過している物件は、過去に他のお客様が交渉しているケースがある。
その時の交渉状況や、指値の金額をヒアリングすることで売主側の考え方や、指値の限界を知ることができる。
ここで指値の限界を知ることができれば、自身が希望する価格と折り合うかどうかのおおよその判断ができるので重要なポイントとなる。
建物の状況と相場を把握する
建物の状況と相場を調べることで、適正な価格であるかどうかを判断することができる。
入居率、空室期間、修繕の課題を見つける
物件の状況を確認するために、不動産業者からレントロール、修繕状況、空室情報をもらう。
まず、レントロールから稼働率がわかるので、周辺の物件と比べることで稼働率が良いかどうか判断でき、実際のキャッシュフローを計算するために必要になる。
稼働率が悪い場合、その理由を考えていく。
次に、空室期間がどれくらいあるのかをヒアリングする。
一般的には2月〜4月は退去・入居が重なるので、退去が一時的に起こっている可能性があり、普段は安定して入居している物件もある。
空室期間が半年〜1年の部屋が多く存在する場合には、需要と供給のバランスが崩れている可能性があるので賃料が相場と合っていない可能性が大きくなる。
最後に、建物全体の修繕状況を確認する。
売主側で資料として残していない可能性もあるので、その場合にはヒアリングをおこなう。
入居・退去に伴う室内のリフォームは適宜おこなっているのが一般的だが、建物全体(躯体、外壁、屋根、設備)の修繕は長期間おこなっていない可能性もある。
現地にて物件の状況を自分の目で確認できるのが一番だが、現地確認が難しい場合にはきちんとヒアリングすることで、購入後にどれくらいの修繕費用が必要になるか想定していく。
周辺物件の価格、利回りと差があるかを確認
上記の要素を中心に検討物件の詳細を把握したところで、周辺で売出・成約した収益物件の価格、利回りを確認する。
不動産業者に依頼することで、周辺事例の情報を収集してもらうことができる。
検討物件と事例を比較していくことで、利回りと価格が相場と合っているかどうかがわかる。
価格が割高・割安に感じる場合あると思うが、それぞれの場合の理由まで考えることで、指値の可能性を探っていく。
指値の交渉とコツ
ここまで3つのポイントを中心に指値の交渉材料を探ってきた。
ここからは、見えてきた交渉材料をもとに具体的なテクニックやコツについてお伝えしていく。
融資可能額と希望価格
銀行から融資を受ける際には、融資可能額というものがある。物件の担保評価や事業性に応じて融資額が変わるため、必ずしも販売価格に対して満額融資が受けられるわけではない。
仮に、1億円の物件に対して50%の5,000万円しか融資が受けられない場合、5,000万円は自己資金を出さなければならない。
それに対して、現在本体に投下できる自己資金が4,000万円しかない場合は、9,000万円が購入可能額となるので、1,000万円の指値が必要となる。
指値の目安と相場
不動産取引では基本的に同じ物件が存在しないため、買い手が多く現れた場合には指値自体ができない取引が多く発生する。
しかしながら、販売に苦戦している物件や売主のニーズに合致する条件であれば指値が可能となり、一般的には販売価格の1割程度までが限界と言われている。
必ず1割の指値が実現するわけではないが、売主側の状況によっては可能なラインとなるので、総合的に状況を判断して指値の金額を決めていく。
指値のタイミング
指値のタイミングは融資可能額・希望価格・購入意思が固まったところでおこなうのがベストだ。
理由としては、売主が一番慎重に判断をしなければいけない段階のため、不安要素や不確定要素がある中では大胆なジャッジはできない。
しかしながら、買主側としても指値ができるかどうかわからないまま検討を進めていくのは効率的ではないため、上記で述べたように売主の状況や過去の交渉状況をあらかじめヒアリングしていくことで無駄な労力は掛けないようにしていく。
まとめ
不動産取引では指値は一般的におこなわれるが、やみくもに打診するのとテクニックを知ったうえで打診するのとでは成功率が変わる。
投資商品の中でも株や投資信託と違い、自分の交渉術で購入価格を変えることができるのは不動産の特徴でもあるので、不動産を購入の際にはぜひ皆様も指値にチャレンジしてみてほしい。