「この敷地だと窓先空地が必要となります。プランを入れてみましたが収支は厳しそうですね。。。」
収支が合いそうな土地を見つけ、設計者や建設会社にプランを依頼した際、このようなことを言われたことはないだろうか?
実際に窓先空地は新築や増築等の開発事業の収益性を左右する重要な要素となるケースが多い。つまり、不動産投資家であればその内容をしっかりと理解しておく必要があるのだ。
今回はこの窓先空地の概要から細かな規定まで解説していく。
目次
窓先空地とは何か?
窓先空地を一言で言うと「避難上必要となる空地」と理解して頂いて問題ないだろう。建築基準法では、火災等の災害が発生した際、人命を守るために建物規模や用途により適切な避難経路を設ける規定が定められている。この避難経路に至る迄の空間に一定大きさの空地を設ける必要があるということだ。
窓先空地については建築基準法上の規定ではなく、地方自治体毎に規定がある。主に東京都や横浜市等、大都市で定められるケースが多い。狭い敷地での計画となるため、避難上の安全性や住環境の悪化を防ぐことが目的なのだろう。では具体的にどのような条件の建物で、どのような空地が必要となるのか説明していく。
窓先空地が必要となる条件とは?
東京都の場合、「東京都建築安全条例」に窓先空地についての規定が定められている。以下抜粋する。
東京都建築安全条例第19条
(共同住宅等の居室)
第十九条 共同住宅の住戸若しくは住室の居住の用に供する居室のうち一以上、寄宿舎の寝室又は下宿の宿泊室は、次に定めるところによらなければならない。
一 床面積(下宿については、附室の部分を除く。)を七平方メートル以上とすること。
二 次のイ又はロの窓を設けること。
イ 道路に直接面する窓
ロ 窓先空地(通路その他の避難上有効な空地又は特別避難階段若しくは地上に通ずる幅員九十センチメートル以上の専用の屋外階段(次項において「専用屋外階段」という。)に避難上有効に連絡する下階の屋上部分で、住戸等の床面積の合計に応じて、次の表に定める幅員以上のものをいう。次項において同じ。)に直接面する窓
表<作成>
住戸等の床面積の合計 幅員
100㎡以下のもの 1.5メートル
100㎡を超え、300㎡以下のもの 2メートル
300㎡を超え、500㎡以下のもの 3メートル
500㎡を超えるもの 4メートル※この表において、住戸等の床面積の合計の欄の数値は、
耐火建築物にあつては、この表の数値の2倍とする。三 避難階以外の階には、避難上有効なバルコニー又は器具等を設けること。
上記の通り、共同住宅の住戸(一般的なアパートやマンションの部屋)や住室の居室に限定されている点に注意したい。つまり事務所や店舗など、常時人が滞在しない用途場合は不要となる。
そして二項のロに記載されている通り、建物の住戸の面積によって必要となる窓先空地の幅員が定められている。この幅員を1辺の長さとする正方形を包含できる大きさが必要となる。最低でも1.5m、最大で4m角の空地を敷地内に設ける必要があるというわけだ。
そして、この空地に直接面する窓が必要となる。窓の大きさは、幅75cm以上、かつ高さ120cm以上で採光、通風及び避難上有効なものとし、災害時に住居者が容易に避難できるものでなければならない。
また、三項に記載されている通り、避難階以外の階(主に1階)以外についてはその窓に面してバルコニーもしくは器具が必要となる。イメージしやすいように図1を参照頂きたい。
条件:住戸面積200㎡の共同住宅で準耐火建築物
窓先空地はどこに通じれば良いのか?
窓先空地は主に避難のためのスペースであるため、単に敷地内に設置すれば良いのではなく、道路等(道路、公園、広場など)に至るまでの屋外通路を確保しなければならない。住戸の面積は200㎡以下の場合は1.5mの幅員、それ以外の場合は2mの幅員が必要となる。
因みにこの幅は有効となる幅であり、敷地境界に塀があり向かいに建物の壁がある場合は、その厚み分は幅員としてカウントすることはできない。
避難上有効なバルコニーや器具とはどのようなものか?
避難上有効なバルコニーだが、大きさは奥行き75cm以上、面積は2㎡以上が必要となる。そこから避難できるように避難ハッチで下階へ移動し、最終的に窓先空地へ到達できるできるようにしなければならない。
続いて、避難器具だが、いくつか種類があり階数毎に設置できるものが決まっている。その中でも最もよく採用されるのは「避難はしご」といわれるものだ。窓付近に設置し、折りたたみが可能なためスペースも少なくて済む。これを設置すればバルコニーは不要となり工事費も削減できる。
窓先空地は他の用途と兼用できるのか?
避難上有効な空地であるため基本的に他の用途との兼用は不可だ。例えば、駐車場及び駐輪場と兼用できれば敷地を有効活用できるが、それでは災害時に有効な避難ができないため認められることは無い。また崖地等の急傾斜があり高低差が激しいスペースや、障害物がある場合も難しい。何も無い青天井のスペースであることが原則だ。(駐車場及び駐輪場へ至る通路との兼用は可能)
窓先空地に緩和はあるのか?
では窓先空地を回避する方法はあるのだろうか?その一つの方法として、上記条文の一項に記載されている通り、道路に直接面する窓を設置すれば良い。また1住戸に複数の居室がある場合はそのうちの1室が道路側に面していれば問題ない。
よって住戸はできるだけ道路側に配置するのがプランニングの基本的な考えとなる。プランが上手く入らない場合は、空地が不要となる共同住宅以外の用途、例えば事務所や店舗等を検討するのも一つの手だ。
二項の通り、窓先空地の幅員はその建物全体の住戸面積で決まるが、同じ建物で道路に面する窓を有する住戸がある場合はその住戸に関しては幅員算定の面積が除くことができる。空地スペースを削減できる可能性もあるので忘れずにチェックしておきたい。
共同住宅と近い用途として長屋がある。長屋とは、共用部を持たない独立した複数の住戸で形成される住宅のことを言う。長屋は上記の条例に含まれていないため除外されるのだ。
但し、長屋に関しては東京都の場合、東京都建築安全条例第5条にて「主要な出入り口と道路の関係」について基準があり、規模や敷地形状によっては共同住宅の窓先空地よりも厳しい条件となるケースがあるので注意したい。長屋の詳細についてはこちらの記事を確認頂きたい。
なぜ窓先空地が収益性と大きな関係があるのか?
不動産開発において重要な要素として、その敷地内でいかに賃貸に出せるスペースを増やせるのかという点がある。今回の事例のような東京都の場合、新築時の工事単価に対する、賃料単価が他エリアに比べて圧倒的に高い。つまり容積率いっぱいに建物を建てたほうが儲かるケースが多いのだ。
しかし、窓先空地はこれとは逆行する基準となる。地上に青天井のスペースを設けたり、そこから道路に通じる道を設けたり、賃貸面積に含まれないバルコニーを設置したりなど、賃貸面積が減少してしまう。つまり収益性を落としてしまう要素と言っても過言では無い。
窓先空地の特殊事例を解説
例えば下階が事務所や店舗などでその上に住戸があるいわゆる下駄履きマンションの場合、低層階の屋上に窓先空地を設ければ地上に設ける必要は無い。
当然ながらその屋上から地上そして道路へ避難するための通路は確保する必要があり、屋上から屋外通路へ移動するための階段は耐火構造とし、有効幅員90cm以上が必要となる。
地上の空地スペースが不要ため低層階の賃貸面積を多く確保することができる。しかも店舗や事務所の賃料単価は住宅よりも高いため収支上は有効に作用するだろう。
窓先空地を攻略するための土地の選び方及びその他の方法とは?
先程の回避方法の一つである、「道路に直接面する窓設ける」方法が最も良いのだが、これは敷地形状に大きく左右される。道路に対して間口が狭く奥行きが長い敷地形状の場合、全ての住戸を道路に面して設置するのが困難だ。逆に道路に対して間口が広く、奥行きが短い敷地形状の場合は道路に並行して住戸を配置し全ての住戸において道路側に窓を設置し易い。よって後者のような土地を探すのが優先となる。
また、窓先空地がどうしても避けられない場合は、道路につながる屋外通路部分での工夫する方法がある。この通路に関しては必ずしも青天井である必要は無く、ピロティ状の空間であっても良い。(ピロティとは2階以上の建物で1階部分を外部とした空間のこと)つまりその上階を建物として賃貸スペースとすることが可能なのだ。
階数が多ければ多いほど賃貸スペースが増えるため収益性は増すだろう。(但し、通路に面する壁、天井は耐火構造とし、開口部は常閉の特定防火設備とする必要がある。)
まとめ
窓先空地は災害時の避難経路の確保や都心部での最低限の住環境の確保のため各地方自治体の条例によって細かな規定が定められている。収益性を求める投資家にとっては利益とは相反する要素となってしまうが、今回ご紹介したように工夫次第では上手く攻略することも可能だ。
どうしても収支が合わないという場合は、条例がない自治体にて土地を探すという選択肢もあるだろう。いずれにしても事業主であれば知っておくべき内容であるため、今回の記事をしっかりと理解して今後の事業に役立ててもらいたい。