アパートやマンションが相続税対策になることは知っているものの、具体的な仕組みやなぜ節税になるのか把握している方は少ないのではないだろうか。
今回は賃貸物件の相続税評価額を決める借家兼割合の仕組みや、具体的な計算方法を詳しく解説する。
アパートやマンションの相続税をさらに節税する方法もお伝えするので、不動産物件相続の可能性がある方はぜひ参考にしてほしい。
目次
借家権割合とは?
借家権割合は「賃貸物件を借主が使う権利の割合」を意味する。借家権割合が30%なら、借主の権利が30%あるということだ。
借地借家法では賃貸物件を借りている人の権利を「借家権」として保護しているため、所有しているオーナーといえど勝手に建て替えや撤去をすることはできない。
つまり賃貸物件は自宅や更地より運用の自由度が低く不動産としての価値は下がるため、借家権割合が設定されていて建物の評価額を少なく見積もることができる。
結果的に更地や自宅を相続するより、アパートやマンションを建てたほうが相続税を抑えられるケースが多いというわけだ。
借家権割合の調べ方
借家権割合は国税庁ホームページ内の財務評価基準書で確認することが可能だ。
都道府県をクリックして借家権割合の項目をチェックすれば、現在のパーセンテージが記載してある。
2021年12月現在、東京・大阪など地域にかかわらず全国の借家権割合は30%で統一されている。ただし今後変更になる可能性はあるため、相続のタイミングで改めて調べたほうが良いだろう。
土地を対象とする「借地権割合」は借家権割合とパーセンテージが違うため、混同しないように注意してほしい。
賃貸物件の相続税評価額計算方法
借家権割合を考慮し、実際に賃貸物件の相続税を計算する方法を解説する。
建物の評価額を調べる
賃貸物件の相続税を計算する基準となる相続税評価額は固定資産税評価額と同じだ。
固定資産税評価額は市町村の調査を元に決定され、3年に一度再調査と評価額の見直しが行われる。
固定資産税評価額を確認する方法は以下の3通りだ。
・固定資産税評価明細書(所有者に対して市町村から毎年発行される)
・固定資産税評価証明書(管轄の市役所などで取得できる)
・固定資産課税台帳(市役所などに申し込みして閲覧する)
正式な手続きなしでとりあえず相続税の概算を知りたい方は、実勢価格の70%で計算すると良いだろう。
賃貸割合と借家割合を計算する
建物の固定資産税評価額が分かったら、次の公式に当てはめて相続税評価額を算出することができる。
固定資産税評価額 × (1-借家権割合×賃貸割合) = 貸家の相続税評価額
借家権割合は前述したように全国一律30%で計算する。
賃貸割合とは実際に貸し出されている部屋の面積を元に計算する。満室時は賃貸割合が100%で最も評価額が低くなり、空室が多いほど評価額が高くなり税額も増える仕組みだ。固定資産税評価額が5,000万円で賃貸割合80%の物件を例に挙げ、上記の計算式に当てはめてみよう。
5000万円 × (1-30%×80%) = 3800万円
自宅として相続する場合と比べると、相続税評価額は1,200万円も減る。実際に計算してみると、アパートやマンションが相続税対策に効果的と言われる理由が分かりやすいのではないだろうか。
賃貸物件の相続税を節税する方法
アパートやマンションを相続する際、相続税を減額する方法がいくつかある。
相続前から取り組みやすい方法を2つほど紹介するので、ぜひ採り入れてみてほしい。
リフォームなどで借入金を増やす
金融機関からの借入でアパートを建築するのは定番の相続税対策だが、すでに建っている物件のリフォームなどでも同じ効果が期待できる。
例えば銀行から1,000万円借入してアパートの外壁塗装をしたケースで考えてみよう。
1:銀行から1,000万円借入。現金も増えるので資産のプラスマイナスはない
2:1,000万円で外壁塗装。維持修繕のリフォームなので資産価値は変わらない。
3:銀行からの借入1000万円が残るので節税対策になる
壁紙の貼り替え・雨漏りの修理・外壁塗装といった維持修繕のリフォームは資産価値に影響しないため、上記のように相続前の財産を減らして相続税を減らすことにつながる。
当然借入金も相続し返済義務がある点は要注意だが、相続後にリフォームするより税額を減らすことができる。
修繕のタイミングが近いなら、相続前早めにリフォームしておくと良いだろう。
入居率を上げる
アパートやマンションの入居率を上げると前述した賃貸割合が高くなり、相続税評価額が下がって節税につながる。固定資産税評価額が5,000万円のアパートを例に、具体的な差を見てみよう。
※満室で賃貸割合が100%の場合
5,000万円 × (1-30%×100%) = 3,500万円
※賃貸割合が50%の場合
5,000万円 × (1-30%×50%) = 4,250万円
上記のように、賃貸割合が変わると相続税評価額も変動する。賃貸経営にとって入居率は高いに越したことはないが、特に相続のタイミングでは空室が少ないほど相続税を抑えることができる。
賃貸割合は課税時期に実際に賃貸されている床面積を元に算出するが、一時的に空室となっている場合は賃貸されているとみなすことができる。
・課税時期まで継続的に賃貸されていたか?
・賃借人の退去後速やかに新たな募集がされたか?
・空室の期間ほかの用途に供されていないか?
・空室期間が一時的であるか?
一時的な空室かどうかは上記のような視点から総合的に判断される。空室期間に物置として使ったり募集をかけていなかったりすると賃貸割合が下がってしまうため、注意してほしい。
賃貸アパートは相続しない方が良いケースもある
赤字で採算が取れる見込みのない賃貸物件なら、無理に相続しないという選択肢も検討したほうが良いかもしれない。
入居率が低く売却も難しいアパートなどマイナス面が大きい場合は、相続放棄するという手もある。借家権割合で相続税を軽減できるとはいえ、黒字化の見込みが無いなら権利を手放した方がメリットは大きいだろう。
ただし相続放棄は対象を取捨選択できないため、預貯金や自宅などの財産もまるごと受け取れない。
相続放棄は被相続人が亡くなってから3ヶ月以内に判断しなければいけないため、早めに財産を把握したうえで検討すべきだ。
故人の想いや遺言、相続人同士の意見なども考慮しなければならないが、相続しないことも選択肢に入れてフラットに考えてみてほしい。
まとめ
賃貸物件の相続税評価額は借家権割合で安く見積もることができるため、自宅や更地より相続税を抑えられるケースが多い。
将来の維持管理や経営のことも考慮しなければいけないが、相続する可能性のある土地が多いなら、早めにアパートを建てておくのも一つの考え方だろう。
相続のタイミングは突然訪れるからこそ、家族でしっかり話し合い準備・対策しておくことをおすすめする。