住宅が密集する市街地の不動産物件では、隣の敷地から延びる枝や騒音など、さまざまな相隣関係トラブルが考えられる。
検討している不動産物件が近隣トラブルを抱えている場合、購入に踏み切るべきかの判断は悩ましい。
相隣関係は原因や当事者同士の関係性によって解決ハードルが変わる。今回は不動産物件でよくある相隣関係トラブルの例と、解決の手順を詳しく解説する。
目次
意外と多い不動産物件の相隣関係トラブル
相隣関係とは
隣り合う不動産の利害関係を調整する状態を相隣関係と呼び、民法でさまざまな内容が規定されている。
隣地使用権(隣地立入権)
囲繞地通行権
水流に関する権利
囲障境界設置権
竹木切除権
上記のような土地の立ち入りや枝葉の侵入などの関係性は、トラブルの現認となるケースが少なくない。所有権のある土地の用途は基本的に自由だが、雨水や庭木の枝葉など隣の土地に悪い影響を与えることもある。
複数の住民が隣り合って暮らす集合住宅では、相隣関係によるトラブルも多い。トラブルを抱えた不動産物件では、入居率の低下や管理コストの増加などの悪影響が考えられる。
購入検討している不動産物件に相隣関係トラブルの兆しが見えたら、状況を詳しく把握して解決可能かどうかしっかり判断すべきだ。
不動産物件の相隣関係トラブル例
ここからは具体例に、不動産物件で多い相隣関係トラブルの例を紹介する。
ぜひ物件を見極める際のチェックポイントとして活用してほしい。
敷地に雨水が流れ込んでくる
相隣関係トラブルで例に挙がることが多い雨水の影響は、流れ込んでくる原因によって対応できるかどうかが分かれる。
民法第214条では、「土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない。」と規定している。例えば、大雨で地面に吸収しきれない水が敷地に流れてくるのは、妨げることができないということだ。
一方で民法第215条では、「他の土地に貯水、排水又は引水のために設けられた工作物の破壊又は閉塞により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、当該他の土地の所有者に、工作物の修繕若しくは障害の除去をさせ、又は必要があるときは予防工事をさせることができる。」と規定されている。隣の建物の雨どいが壊れて水が流れてきている場合、修理改善の要求ができるということだ。
まとめると、自然発生している水流は防げず、人工的に発生している水流は防ぐことができるということになる。
隣地との間にブロック塀が無く水が流れた跡がある物件は、原因をしっかりチェックすべきだ。
騒音がうるさい
人によって感じ方が違う騒音トラブルは生活への影響が大きく、根深い争いに発展することも少なくない。
騒音は法律である程度規定されているが、エアコンやテレビなどの家電、話し声などがトラブルの原因となることもある。隣のエアコン室外機の作動音が原因で、裁判に発展したケースも報告されている。
学生や若い社会人向けのワンルームマンションなどでは、深夜の宴会による騒音苦情なども要注意だ。
音は目に見えない要素なため難しいが、管理会社に過去の苦情やトラブル履歴を聞いてみるのが良いだろう。
枝が越境している
隣の敷地に建っている木の枝が塀を超えて入ってくるケースも、よくある相隣関係トラブルだ。
このようなケースは民法233条で規定されていて、木の所有者に対して枝を切るよう請求することができる。
枝の越境は目視でもわかりやすく、ルールも明確なため比較的解決しやすい相隣関係と言えるだろう。
敷地の通行権によるトラブル
公道に接していない袋地で認められている「囲繞地通行権」も、相隣関係トラブルの原因になることが多い。
囲繞地通行権は他人の土地にとって一番損害が少ないルートを選ぶ必要があり、勝手な場場所を通ると揉める可能性が高い。
また他人の土地を使うための補償金を支払うことも決められているが、未払いや金額などでトラブルに発展するケースもある。
袋地の不動産物件を検討する際は、近隣との関係性や権利をしっかり事前調査したほうが良いだろう。
窓位置によるプライバシー問題
都市部など隣の家が近い場合、窓の位置によってはお互いの生活が見えてしまいプライバシー問題に発展することもある。
このようなケースに対し、民法235条では境界線から1メートル未満の距離に他人の宅地を見通せる窓や通路を設ける場合、目隠しの設置を規定している。
ただし当事者同士で目隠しが必要ないと話がまとまれば問題ないこともある。
このケースについては後半で実際の判例を紹介するのでそちらも参考にしてほしい。
積雪時の屋根からの落下
落雪は建物や人への直接被害につながるケースが多く、注意すべき相隣関係トラブルの一つである。
雪は基本的に隣の敷地に落下しないよう、雪止めなどの対策を取る必要がある。
実際に積雪が無い状態では見極めにくいが、隣の家との距離が近い場合は落雪対策の有無をチェックしたほうが良いだろう。
建物が敷地ギリギリに建っている
民法234条では、建物をつくる際は境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならないと規定している。
しかし実際には無断で50センチ以内の場所に建てられているケースも多く、後で発覚してトラブルに発展するケースも少なくない。
不動産物件をチェックする際は建物を一周してみて、隣家との距離を確認してみるのがおすすめだ。
相隣関係トラブルの解決手順
まずは当事者同士で話し合い
相隣関係トラブルの解決手順としては、まずは当事者同士で改善について話し合うのが基本となる。
当事者の自覚が無いまま迷惑になっているケースなどでは、話し合いだけで解決に至る可能性もある。テレビの音量を少し下げる、深夜の宴会を控えるなど、お互いの気遣いで解決できる問題も少なくない。
自治体の住民相談窓口などを活用し、第三者目線で助言・指導してもらう手段もある。
もし大家としてトラブルの対応を求められたら、まずは当事者同士の話を聞いてみるところから始めてほしい。
解決できないときは民事調停制度
話し合いで解決できない場合、裁判所が管轄する民事調整制度による解決を目指すことになる。
民事調停は原則簡易裁判所が管轄し、訴訟より手続き・費用のハードルが低いのが特徴だ。
訴訟のように勝ち負けを争うのではなく話し合いの延長であり、客観的第三者を交えての公式な話し合いといったイメージがわかりやすいだろう。
調停が成立すれば公的な効力を持つため、口約束を反故にされる心配もない。
調停不成立の場合は訴訟
民事調停でも話がまとまらなければ、民事訴訟によって強制的に解決する手段に移行する。
訴訟は手続きや金銭面のハードルがかなり高くなるので、あくまで最終手段として考えるべきだろう。
手続きや進め方については、法律の専門家に相談することになる。
相隣関係トラブルの判例
最後に、相隣関係トラブルで訴訟まで至ったケースの判例を一つ紹介する。
概要
①:建物Aの敷地から1メートル未満の位置に、新しい賃貸マンションBが建設されることになった。
②:所有者Aは賃貸マンションBに対し境界線からの距離を延長することと、目隠しの設置を要求したが、Bは窓の一部をすりガラスにしたのみで目隠しは対応しなかった。
③:Aはプライバシーの侵害が生じたとして、Bに対し建物北側の窓すべてに目隠しの設置を請求した。
判決
Bの賃貸マンション1~2階の居間兼食堂の窓から建物Aが見渡せることから、該当部分のみ目隠し設置義務が認められた。
民法では境界線から1メートル未満の距離で隣地が眺められる窓を設ける場合、目隠しを設置すべきと規定している。しかし当事者同士で話し合いがまとまれば、目隠しが不要になることもある。
新規にアパートを建てたり、間取り・窓位置を変更したりする場合は、法律の適合性をチェックするだけでなく隣の住民と話し合うことも必要になる。
結論:相隣関係トラブルのある物件は購入して良い?
相隣関係トラブルのあるアパートやマンションは、話し合いや調停で解決できるレベルなら購入の余地があるだろう。
当事者同士の関係性が悪いなど民事訴訟まで発展しそうなら、手を出さないのが無難である。近隣トラブルが多発すると物件の評判が悪くなり、入居率の悪化などのリスクも考えられる。
隣の家との距離が近い市街地、防音性が低いマンションなど、トラブルリスクが高そうな物件は特に注意してチェックしてほしい。