不動産オーナーが知るべき占有権と所有権の違いを分かりやすく解説

不動産オーナーが知るべき占有権と所有権の違いを分かりやすく解説

不動産オーナーとして複数の物件を運用している方なら、「占有権」について目や耳にすることがあるかもしれない。

占有権は賃貸物件や知人・親戚との土地貸し借りなど複数の運用シーンに関わる可能性があり、不動産オーナーとして知っておくべき知識の一つだ。

今回は占有権の基本的な仕組みや所有権との違い、不動産運用で実際にあった判例などを詳しくご紹介する。

しっかり占有権についての理解を深め、不利な契約内容やトラブルを回避できるように役立ててほしい。

 

占有権とは

民法第180条で定められている占有権は一言で表すと「物を支配する権利」のことを指す。「有体物」が対象となるため範囲は幅広いが、土地や建物も含まれるため不動産運用との関わりは深い。

不動産オーナーの立場から具体的に占有権がどのようなものか見てみよう。

占有権とは

図1:不動産オーナーが購入して、自分で使用している土地⇒占有権はオーナー

図2

図2:不動産オーナーがAさんに土地を貸し出す⇒占有権はAさん

不動産オーナーが購入した土地は自分の物であり、自分で使用しているのであれば占有権もオーナーが持っていることになる。(図1)

この土地をAさんに貸し出した場合、占有権は実際に土地を使用しているAさんに移行する。(図2)土地の権利は不動産オーナーのままだが、実質的に土地を直接支配しているAさんに占有権だけが移動するということだ(不動産オーナーは、Aさんを通じて土地を占有する代理占有(間接占有)の状態になる)。

土地を例に挙げたが建物や設備も同様に、意思を持って実質的にその場を実効支配している者に占有権があるということになる。極端な例だが、許可を得ず人の土地に建物をつくり勝手に住んだとしても占有権は発生する。

 

占有権と所有権の違い

占有権と似ていて混同されやすい「所有権」との違いについても確認しておこう。

所有権とは対象物を自由に使用・収益・処分する権利のことを指す。法令の範囲内であれば、土地や建物をどのように使い、いつ処分しても良いということだ。

上の図でも説明したとおりほかの人間が占有しても所有権は移行せず、対象の土地や建物が存在する限り消滅することもない。

わざわざ所有権と占有権を分けているのは、トラブルの際事実上の占有者を一時的に保護することが主な目的である。占有権がないと、所有権を持つ賃貸オーナーが賃借人を強制退去させるといったトラブルが考えられる。

占有権と所有権の違い

 

占有権の20年取得時効について

不動産関係で占有権関連のトラブルの原因となることが多い時効取得も、オーナーとして知っておくべき知識の一つだ。

時効取得とは自分の物ではない土地や建物を「所有する意思」を持って長期間占有し続けると、所有権を主張できる制度だ。不動産オーナーの立場から見ると、他人に自分の土地や建物の所有権を奪われてしまう可能性があるため注意する必要がある。

※所有権の時効取得成立の条件

・平穏かつ公然と占有していること(暴力や脅迫はNG)

・対象となる不動産を20年間占有し続けること(善意かつ無過失の場合は10年間)

・所有する意思を持って占有していること(自主占有)

・本来の所有者が所有権の主張や返還請求をしていないこと

ちなみに賃貸契約の場合、賃借人は建物や土地を「借りている」ため所有の意思とはみなされず、何年住み続けても時効取得は成立しない。不動産物件の時効取得が成立する可能性があるケースを例に挙げてみよう。

ケース1:隣の建物が増築をして越境してきていたがお互いに気づかず、時効取得の条件を満たした。

ケース2:相続した遠方の土地に知らぬ間に人が住みつき、20年以上経過した。

ケース3:所有する土地の一部を親戚に無償で貸し出したところ、親戚が自分の土地であると言い出して土地にラーメン店を建ててしまい20年以上占有し続けた。

ほかにもさまざまなケースが考えられるが、不動産物件の管理を怠ると時効取得により所有権を失う可能性が出てくる。

他人の土地や建物と知りながら占有しているケースでも時効取得は成立する可能性がある。多数の物件を所有・運用しているオーナーは特に気を付け、不当な占有をされていないか定期的に確認し、明け渡し請求などの対策を取るべきだ。

 

所有権に基づく返還請求と占有権原の抗弁の可能性

不動産オーナーとして自分の物件が不当に占有されている場合所有権に基づく返還請求で物件を守る必要がある。このとき占有者が占有権原の抗弁を行う可能性についても知っておくべきだ。考えられるパターンを2つほど挙げてみよう。

パターン①

・土地を勝手に使っている人物に対して所有権に基づく返還請求をする

・土地の使用者が「賃料を支払っているし契約期間が残っているので占有権原がある」と抗弁として主張する

パターン②

・Aから購入した土地をもともと資材置き場として使っていたBに対して返還請求をする

・Bが「Aとの約束でこの場所を借りて占有しているので占有権原がある」と主張する

どちらのパターンも不動産運用を行う中で、遭遇する可能性はゼロではない。土地や建物を登記していないといった落ち度があると、そもそもの所有権を否定されるケースもある。土地建物の購入時や賃貸運用の際は、こうした可能性も踏まえて落ち度のないように準備してほしい。

 

不動産の占有権に関する判例

最後に実際の判例から占有権に関する物をピックアップして紹介する。長期占有による時効取得の事例だ。やや複雑な事例となっているため、一部をわかりやすく抜粋して紹介する。

概要

概要

【概要図】

① 昭和34年6月4日:原告が所有する土地1の一部を、所有者と称する人物NからMが土地2の一部として認識して購入し、実際には土地1上に建物を建築して10月31日以降占有を開始した。
② 昭和34年12月ごろ:被告がMから土地と建物を贈与され、土地1を、土地2と考えていたために、原告の所有とは知らないまま自宅として使用する。
③ 昭和55年2月18日:土地2について時効取得を原因とし被告への所有者移転登記が完了した。
④ 平成9年:原告側がNの自宅による土地1の占有に気づき、司法書士と市役所を交えて協議したが物別れに終わった。
⑤ 平成16年:原告が土地1の明け渡しを請求した。

この事例では被告が占有開始時に過失があったことを認めているため、時効取得期間の20年が成立するかが議論された。結果としては被告が自分の土地だと思い込んだまま20年占有したことが認められ、土地の時効取得が成立した。

 

まとめ

占有権・所有権は不動産運用との関わりが深く、おろそかにすると大切な土地や建物を失ってしまう可能性もある。売買・賃貸などどの運用方法にも関連するため、基本的な仕組みや考え方を覚え、占有者の有無やその占有権原、土地の境界や土地上に他人が所有する建物や塀等がないかについては、契約の際にしっかりチェックしてほしい。今回の記事が不動産運用の一助となれば幸いだ。

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最終更新日 : 2020年4月20日
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