「購入した物件を売却しようと思ったが実は容積オーバーだった。。売るに売れない。こんなはずじゃなかったのに。。」
この様な状況の場合、原因は増築や車庫転であるケースが多い。
増築は容積率を超えて建物を建てることで想像し易いが、車庫転とはいったいどの様なものなのか?意外と多い車庫転物件の詳細について説明していく。
車庫転物件とは何か?
車庫転とはもともと駐車場だった部分を勝手に他の用途に変更して建物を使用することで違反建築物になってしまうことを言う。何故このようなことが頻繁に発生するのか?その理由は駐車場の容積対象面積不算入というルールがあるからだ。
屋内駐車場(屋根がある駐車場)は基本的には容積対象床面積に含まれるのだが、建物全体の延床面積の1/5迄は容積対象にしなくても良い。つまり、対象外となった1/5の面積分、建物を多く建てることができる。
仮に延床面積が1000㎡のビルを想定してみよう。その1/5、つまり200㎡迄であれば駐車場は延床面積に含まれない。この200㎡は賃貸可能なスペースとして増床することが可能だ。土地の効率的な利用を目的にこの様なルールがあるわけだが、都心部であればあるほど収益面ではプラスの効果をもたらしてくれる。下記図を参考頂きたい。
不動産業界では基本的には容積率によって土地の単価が変わる。当然、多くの床を設けることができる土地の坪単価は高くなるのだが、このルールは土地の容積率を1/5増やすのと同等の効果があり、土地の価値を高めることができる。
投資家にとっては良いこと尽くめであり、そのまま駐車場として使用していれば何ら問題は無いのだが、中にはこれを悪用する事業者もいる。駐車場の収入は賃料単価や安定性という点からみて優れているとは言い難い。また、建物の屋内駐車場は地上付近に計画しているケースが多く利用価値が高い。そこでこの駐車場を駐車場以外のより収益性の高い用途に変更してしまうのだ。
ここで問題が発生する。ほとんどの駐車場は上述した通り、容積対象外として計画しているため、用途変更することでそのスペースが容積対象となってしまうのだ。つまり、もともと駐車場を容積対象外として、容積率いっぱいに建物を計画しているにもかかわらず、さらに容積対象となる床が増えるので容積オーバーになってしまう。よって用途変更による確認申請をすることもできず、違反建築物となってしまう。これが車庫転物件というわけだ。
車庫転が多い物件の特徴とは?
車庫転が多い物件の特徴としてまず築年数がある。建物を建てる際には「確認申請」→<確認済証>→工事開始~竣工→「完了検査」→<検査済証>→使用開始というルールがある。現在はほぼ100%近く守られているのだが、20年ほど昔は40%以下と圧倒的に少なかった。これが30、40年となるとさらに少なくなる。
つまり確認申請をしたけど、実際に完了検査をせずにそのまま建物を使用開始してしまうケースが頻繁にあったということだ。これを先程の車庫転にあてはめると、申請時には駐車場として計画し、実際の工事は駐車場ではなく賃貸スペースとして工事をし、完了検査を受けない。。。といった具合になる。
昔はこういった違法な行為が横行していたのだ。住居系よりもオフィスなどの商業系のビルの方がその傾向が強い。よって築30年超えの物件に関しては後述する購入前のチェックは必ずして欲しい。
車庫転物件を合法にするための方法とは
ではこのような車庫転物件を合法にする場合どのような方法があるだろうか?最もシンプルな方法としては、元の駐車場に戻すという方法となる。しかし既にテナントが入っている場合はそう簡単に退去させることはできない。日本では賃借人の権利が強いため、立ち退きには多額の費用が発生するケースが多く現実的では無いだろう。また仮に隣地が売りに出ていた場合はその土地を購入して容積対象面積を増やすという方法もあるだろう。しかし、これも同様に現実性には欠けてしまう。
但し、余っているスペースがある場合は可能性がある。現状、使われていないスペースがあればそこを容積対象外にしてしまえば良い。例えばテナントの一部が空室であれば、そこを「備蓄倉庫」に変更する。備蓄倉庫は延床面積の1/50迄は容積対象外となるため、車庫転した面積がカバーできれば解決ができてしまう。それ以外にも容積対象外となる用途はたくさんあり下記に記載するが備蓄倉庫一番扱いやすいだろう。
但し注意点としては、賃貸スペースが減少してしまうため、その分収入が減り、物件の利回りが下がってしまうという点だ。売却する場合は価格が下がってしまう可能性が高いのでその点はご理解頂きたい。また特殊建築物の用途変更で200㎡を超える場合は確認申請が必要となる。※類似用途への変更を除く(用途変更についてはこちらを参照)
また、規模の大きな共同住宅や事務所やホテルなど商業系のビルの場合は附置義務駐車が必要となるケースが多いので、容積以外の問題が発生する点は注意したい。
法改正を利用する
建築基準法は社会情勢に応じて改正されているのだが、それを利用するという点もある。例えばエレベータの昇降路はもともと容積対象面積に含まれていたが、平成26年6月4日、「建築基準法の一部を改正する法律(平成26年法律第54号)」により、全て用途においてエレベーターの昇降路は容積対象外となった。
平成26年6月4日以前に確認申請を提出している物件であれば、エレベータの昇降路は容積対象外となっているが、用途変更や増築などで確認申請が必要なタイミングで昇降路部分を容積対象外にすることで、車庫転で増えたしまった床面積を減らすことも可能だ。但し、その他現行法規に適合させなければならない箇所もでてくるので、その辺りはチェックが必要となる。
まとめ:購入前のチェックポイント
今回は車庫転物件の基本と是正方法について解説させて頂いたが、当然合法である建物であればそのような悩みを抱えることは無い。実際の不動産売買の現場では車庫転に限らず不動産業者でさえ気づいていないケースも多々あるため、購入する投資家側も建築の専門的な知識をある程度身につけておく必要はあるだろう。そのためのチェック方法について順を追って説明をしていく
・確認申請書のチェック
購入予定の物件があればまず確認申請書を取り寄せよう。無い場合は役所が発行する「台帳記載事項証明書」を取り寄せる。そこにその建物がどの用途で申請されているのかを確認することができる。
用途の確認ができたら、建物図面をチェックする。屋内に駐車場があれば要注意だ。その用途が建物の何階のどの部分に位置するかを確認し、可能であれば求積表も確認し、容積対象として申請している部分を把握しよう。そして実際に現地を見学し元々容積対象外となっている部分を中心にその用途がその通りに使用されているかチェックする。
これを事前にするだけでも容積オーバー物件と知らずに買ってしまうことは避けられるだろう。車庫転以外にも違反建築物は意外と多く流通している。そのような物件に手をだすことが無いようしっかりとした知識を身に着けつけて頂きたい。