他人の敷地を通らないといけない土地や高圧送電線の鉄塔近くの土地・建物には、地役権が設定されていることがある。
地役権は不動産物件の利便性や価値に影響することもあるため、どんな権利なのか把握しておくべきだ。
この記事では地役権の基本的なルールや具体的な例、注意すべきポイントなどを詳しく解説する。
目次
地役権とは
まずは地役権の基本的なルール・仕組みについて理解しておこう。
他人の土地を利用できる権利のこと
地役権とは自分の土地の利便性や利益(便益)のために、他人の土地を使用できる権利のことを意味する。
便益を提供する側の土地を承役地、便益を受け取る側の土地を要役地と呼ぶ。
地役権は要役地・承役地所有者同士の交渉や契約によって設定されるため、目的や内容はさまざまである。
例としては、自分の敷地より他人の土地を通った方が、利便性が良い場合、地役権を設定して通行できるようにするケースなどが多い。土地を使用することへの対価設定なども当事者同士の話し合いとなる。
その他の地役権の具体的なバリエーションについては、第二章で詳しく解説する。
地上権との違い
地役権と似ている地上権は混同されやすい権利だが、内容や目的が異なるため違いを把握しておこう。
地上権は建築物や竹木を所有するために他人の土地を使う権利のことを意味する。
建物を建築する内容の地上権が設定されている場合、地上権を保有している権利者(地上権者)は、地主の許諾なしに地上権を売却したり転貸したりすることができる。
目的 | 対象 | |
地役権 | 自分の土地の便益を向上する | 自分の土地と隣接する他人の土地 |
地上権 | 他人の土地の上に建物や竹木を所有する | 他人の土地で完結 |
対象となる不動産物件に地上権が設定されている場合は、地役権とは全く違う対応が必要になることを覚えておこう。
地役権の具体的な例
実際の不動産物件で見られることが多い、具体的な地役権のバリエーションを解説する。
隣の敷地を通行する
他人の土地を通ることで利便性を向上させる「通行地役権」は、遭遇する確率が高い例だ。
上記の例では、表通りに出る際に他人の土地を使えれば最短ルートを通ることができる。このようなケースでは承役地の所有者に交渉し、地役権を設定することが多い。
承役地の使用料金や通行できる範囲などは当事者同士の話し合いで決定する。
他人の土地を通らないと公道に出られない袋地は「囲繞地通行権」を設定することになり、ルールや対価設定などが異なる。
対して地役権は他人の土地を通らなくても問題ないケースでも、利便性を向上するために交渉・設定することができる。
高圧電線が上空を通過している
不動産物件の上空を高圧電線が通過している場合、電気事業者との間に地役権が設定されているケースもある。
送電線の電圧によっては建築物に対する制限が設定されているケースもあるため、マンション・アパート建築用の土地では注意が必要だ。
例えば170,000V以上の高圧電線が通過している土地は、電線から水平方向3メートル以内には建物をつくることができない。
送電線地役権は電力会社から土地の使用料が支払われることが多いが、物件の運用や売却面でのリスクもあるため慎重に検討すべきだろう。
前の所有者と電力会社間で設定した地役権が存在する場合、これを引き継ぐ必要があるため、購入前によく確認してほしい。
地下に配管や電線を通す
地役権は土地の表面や上空だけでなく、地下も対象となることがある。給排水管や電気配線を埋設する際に、他人の土地の地下を通さないといけないケースが該当する。
地下に配管や電線が通っている不動産物件は、新築や建て替えの際に地役権の抹消や配管の撤去が必要になる可能性がある。逆に他人の土地の地下を通過してガスや水道を引き込んでいる場合、将来撤去を要求されることも考えられる。
地下の埋設物や設備は地下利用の制限がかかり、物件評価額にも影響するためしっかり確認すべきポイントだ。
日当たりを確保する
土地や建物の日当たりを確保するため地役権(日照地役権)を設定するケースもある。建築基準法では斜線制限や日影規制などのルールがあるが、それでもカバーしきれない場合は当事者同士で話し合う必要がある。
日照地役権は、建物の高さや範囲に制限をかけることで要役地の日当たりを確保するのが一般的だ。
日照地役権が設定されている不動産物件は、建て替えや増築時に制限を受ける可能性がある。
地役権は登記が必須
承役地と要役地所有者の間で交渉がまとまったら、地役権設定の登記が必要となる。
地役権の対抗要件は設定登記
地役権は物権の一種で、民法177条に登記しなければ第三者に対抗することができないと明記されている。
例えば隣地を通行する地役権を登記していないと、承役地の所有者が変わったとき対抗することができない。仮に新しい所有者に通行を拒否されてしまうと、もう一度交渉して地役権を設定するしかなくなる。
しっかり登記しておけば、承役地の所有者が変わっても地役権の内容は引き継がれる。通行地役権などはお互いの合意だけで登記されていないケースもあるが、基本的には登記すべきものと覚えておこう。
地役権の登記に必要なもの
地役権を登記するにあたり必要な物は以下の通りだ。
・承役地所有者の実印と印鑑証明書
・要役地所有者の認印
・承役地・要役地所有者の本人確認書類
・承役地の権利書/登記済証
・登録免許税(承役地の個数×1500円)
上記に加えて、承役地の一部に地役権を設定する場合は「地役権図面」が必要になる。これは地役権が及ぶ範囲を明確にするために必要になるが、承役地全面が対象となる場合は不要だ。
地役権図面は不動産物件に設定されている地役権の内容や範囲を確認する際にも必要になる。
地役権の時効消滅の可能性
地役権には時効消滅が設定されているため、気づかぬうちに権利を失わないように注意が必要だ。
民法第166条第2項
債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
第291条
第百六十六条第二項に規定する消滅時効の期間は、継続的でなく行使される地役権については最後の行使の時から起算し、継続的に行使される地役権についてはその行使を妨げる事実が生じた時から起算する。
前述した通行地役権は「継続的に行使される地役権」に該当する。仮にフェンスなどで通行を妨げられると、その日から起算して20年経過した時点で地役権が時効消滅するということだ。「継続的でなく行使される地役権」には汲水地役権などがある。
まとめ
地役権は不動産物件の運用や資産価値に影響することもあるため、検討時に必ずチェックすべきポイントだ。
購入検討する土地や建物に地役権が設定されていたら、登記内容や地役権図面で不利な条件が付いていないか確認してほしい。
隣地を使わせてもらうことで物件の利便性が向上するようなら、所有者に交渉して地役権を設定することも視野に入れよう。