「築古の戸建て住宅なら安くて現金で買えそうだ。しかし資金効率が良く無いので利回りをどうにかして上げたい。いっそうのことシェアハウスにして賃料収入を上げてしまおうか。。。」
と安易に考えるのは危険だ。建築基準法では建物の用途を変更する場合に確認申請を要する場合があることを定めている。用途変更が必要にも関わらず、何もしないで建物を使用し始めた場合、その建物は違法建築物となってしまう。
発見された場合、使用停止や罰金を命じられる可能性もある。そうならないためにも事前にしっかりとした知識を身に着けておく必要があるのだ。
用途変更で確認申請が必要となる条件とは?
用途変更と建物の全部若しくは一部の用途を他の用途に変更すること言う。建築について詳しくない方からしたら『自分の所有物だから自由に使って何が悪い!』と思いがちだが、建物は使用者の安全性を確保するために、その用途によって耐火性能や避難や消化に関する基準が定められている。
よってその際は建築確認申請が必要となる。しかし全てケースで必要となるわけでなく、一定の条件を満たした場合はのみとなる。ではその条件について解説していく。
条件
①:200㎡を超える特殊建築物への用途変更は原則確認申請が必要
②:但し類似用途への変更の場合は不要
まず①について。特殊建築物とは不特定な人々が多数利用する建物で、利用者の安全を確保するために様々な技術的な基準があり、建築基準法別表1(い)欄に該当するものだ。
これら用途に供する部分の面積が200㎡を超える場合は確認申請が必要となる。例えば4階建ての共同住宅の1階を住宅から飲食店に変更した場合、特殊建築物への変更とるため面積が200㎡を超えていれば対象となる。続いて飲食店ではなく事務所に変更した場合はどうだろうか?この場合、事務所は特殊建築物では無いため仮に200㎡を超えていたとしても対象外となる。
また②の通り例外もある。建築基準法施行令第137条の18では「確認申請が不要な類似用途」について定めている。この用途間での変更であれば文字通り対象外となる。
<図建築基準法施行令第137条の18>
①劇場、映画館、演劇場
②公会堂、集会場
③診療所、児童福祉施設
④ホテル、旅館
⑤下宿、寄宿舎
⑥博物館、美術館、図書館
⑦体育館、ボーリング場、スケート場、水泳場、スキー場、ゴルフ練習場、バッティング練習場
⑧百貨店、マーケット、物品販売業を営む店舗
⑨キャバレー、カフェ、ナイトクラブ、バー
⑩待合、料理店
⑪映画スタジオ、テレビスタジオ
言葉だけでは理解しづらい部分もあるのでここでいくつかのケーススタディをしてみる。
確認申請はハードルが高いその理由とは?
用途変更で確認申請が必要であれば素直に実行すれば良いのだが、実際には諦めざるお得ないケースも多々ある。それは何故か?
建築基準法は時代に合わせて法改正されているが、当然ながら古い建物は最新の法律に適合していない。その様な建物を「既存不適格建築物」と言う。この建物は現状のまま使い続ければ今のままで良いのだが用途変更をした場合は、現行の法律に合わせなければならないというルールがあるのだ。
もちろん全て適合する必要はなく重要な部分、例えば 採光、換気、界壁、避難、消化など建物の環境や安全性を確保するために必要となる措置が必要となる。つまり多額の工事費が発生してしまうケースがあるということ。これがハードルが高くなる理由である。
この用途変更は危険!事例を解説
では具体的に冒頭に説明した住宅や共同住宅をシェアハウスに用途変更する際についてどのような工事が必要となるのか検証してみる。
シェアハウスは建築基準法上「寄宿舎」という扱いになる。建築基準法別表1(い)欄 に記載されているので特殊建築物となる。
建物の延べ面積や仕様によって異なるが、住宅が寄宿舎になることで必要となる可能性がある主な基準について列挙する
・出口から道路に通ずる通路の幅を150cm以上確保
・非常用進入口の設置(道路に面する面に75cm×120cmの開口部を設置)※3階以上
・防火上主要な間仕切り壁の設置(各部屋及び廊下との間に準耐火構造の壁を小屋裏まで)※緩和あり
・内装制限(居室の仕上げを一定の防火性能以上にする必要あり)
・2方向避難(階段もしくは避難上有効なバルコニーを新たに設置)※主要構造部の仕様による
Etc…..
また東京都安全条例では寄宿舎に対しても窓先空地の設置が必要とされている。
但し共同住宅よりは大幅な緩和があり、共用スペースから避難バルコニーor避難器具を設置し、有効50cmの避難通路があれば良い。おそらく空室対策等の効果を狙っての緩和と思われる。
このように住宅からシェハウスへの用途変更は安易には行えないことをご理解頂けたかと思う。但し既存建物の規模や仕様によって必要となる工事は異なるため、必ず建築士等の専門家に相談して計画を進めることをお勧めする。
確認申請が不要だからとって安心してはいけない理由とは?
『200㎡を超える特殊建築物への用途変更は原則確認申請が必要』というルールは冒頭にお伝えしたが、では200㎡以下であれば上記の工事は不要なのか?実はそうでは無い。
あくまで確認申請が不要で公的なチェックを受けなくても良いというだけであって実際には現行の法規に合わせるのがルールである。よって確認申請が不要だからといって是正工事無しで用途を変えて使用開始するのはお勧めしない。
まとめ
今回は用途変更と確認申請の関係性について解説させて頂いた。空室率が増加し続ける中で、用途変更=コンバージョンはその問題を解決するための有効な手段の一つである。
よって計画を進める際は専門家と十分に協議を進めて、収益面はもちろんのこと社会的にも貢献できるような事業なれば良いと思う。