狭小地や旗竿地が多い都市部では、接道義務を満たしていないマンションやアパート物件も少なくない。
接道義務違反の物件は相場より安いことも多く魅力的だが、建築制限、防犯・防災面でのリスクがあるため扱いが非常に難しい。
こうした物件を検討する際は資産価値とリスクのバランスを考え、損のない選択をすることが重要になる。今回は接道義務の基本的な内容と、違反物件で考えられるリスクを解説する。
目次
接道義務とは
まずは接道義務の基本的な内容や意味を解説する。
道路に2m以上接する義務のこと
接道義務は建築基準法によって規定されており、幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していない土地には建物を建てることができない。
仮に接道間口が1.5メートルだったり、道路幅が4メートル以下だったりすると接道義務違反となる。
接道義務違反の土地は基本的に建築許可が下りないが、建築基準法によって接道義務が定められた1950年以前に建てられた物件は今も残っている。
集合住宅は接道6mのケースもある
管轄の自治体によっては集合住宅の床面積によって接道義務の条件が厳しくなるケースもあり、特に注意が必要だ。
例えば東京都内の場合、共同住宅の接道条件は床面積の合計によって次のように定められている。
床面積の合計 | 接道幅 |
500㎡以下 | 4メートル以上 |
500超 1000㎡以下 | 6メートル以上 |
1000超 2,000㎡以下 | 8メートル以上 |
2000㎡超 | 10メートル以上 |
(東京都建築安全条例第10条の3)
床面積や階数など物件の条件、接道条件は自治体によって異なるため、検討物件の市町村に確認してみた方が良いだろう。
なぜ接道義務があるのか
接道義務が定められているのは、火災や事故の際に緊急車両がスムーズに進入し住民の安全を守れるようにするためだ。
消防車の幅は約2.5メートルで、消火活動に必要な作業スペースは約1.5メートル、合計4メートルの幅が必要と言われている。また建物から避難するとき消防隊員とすれ違うためには、道路への出入り口幅が2メートル以上必要だ。
接道義務を満たしていない土地は住民の安全が確保できないため、建築許可が下りないというわけである。
接道義務違反物件で考えられる制限・リスク
続いて接道義務を満たしていない物件に対する建築制限やリスクを具体的に解説する。
再建築できない
接道義務を満たしていない建物をそのまま使用することは問題ないが、基本的に建築許可が下りないため建て直しをすることはできない。
建物が寿命を迎えたら解体して更地にするしかなく、その後の運用が難しいのは大きなリスクだ。
立地が良ければコインパーキングや貸駐車場にする方法もあるが、それも難しければ持てあましてしまう可能性が高い。
再建築不可物件の詳しい内容については下記の記事もご参照いただきたい。
【関連記事】⇒再建築不可物件の基本知識を一級建築士が徹底解説!
売却が難しい
再建築やその後の運用が難しい接道義務違反の物件は、売却しようとしても買い手が見つかりにくい点も把握しておくべきだ。
仮に更地にしても使い道が限られるため、相場よりかなり安い価格でないと売却は難しいだろう。
入居者が集まりにくい
接道義務を満たしていない物件は一般車両の出入り面でも不便が大きく、入居率への悪影響も考えられる。
幅4メートル以下の道路で車同士がすれ違うのは難しく、引っ越し車両を長時間停めておくのにも神経を使う。逆に路上駐車のせいで自分が通行できないケースも少なくない。
仮に駐車場がある物件でも前の道路幅が狭いと車庫入れが難しく、車を使う上ではかなり不便が大きい。
間口が狭い「旗竿地」や「うなぎの寝床」と呼ばれる土地は圧迫感が出やすく、入居希望者が内見時にマイナスイメージを抱く可能性もある。
メンテナンス費用が多くかかる
接道義務違反の物件は基本的に築年数が古いため、運用中のメンテナンス費用が多く発生するのも大きなリスクとなる。
木造・鉄筋コンクリート造など構造に関わらず、築年数が経つほど雨漏れトラブルや大規模な修繕費用が発生する可能性は高くなる。
※築年数が古い物件で発生しやすいメンテナンス
・給排水管の入れ替え
・雨漏れ補修
・シロアリ消毒/補修
・外壁/屋根の張り替え
上記のメンテナンス費用はまとまった金額になることが多く、賃貸経営を圧迫する原因になりかねない。
接道義務の例外
接道義務の条件を満たしていない場合でも、例外的に建築許可が下りるケースもある。
みなし道路
接している道路の幅員が4メートル未満でも、特定行政長の指定を受けた「みなし道路」なら再建築が可能だ。
みなし道路の条件は以下の通りである。
・建築基準法が制定された1950年11月23日以前から建物が建ち並んでいる
・幅員4メートル未満
・特定行政長の指定を受けている
ただし再建築する場合は後述するセットバックや隅切りといった制限があり、土地の境界が後退することになる。
都市計画区域外
郊外エリアなどの都市計画区域外の土地は接道義務の規定が適用されず、接道間口や道路幅員に関係なく再建築できる。
ただし土地の間口や道路幅が狭い以上、住民の利便性や防災面のリスクがある点は把握しておくべきだろう。
建築基準法改正による緩和
接道義務を満たしていない土地でも、防災や交通上の問題がないと認められれば建築許可が下りるケースがある。
以前は建築審査会の個別審査を受ける必要があったが、2018年の建築基準法緩和によって、一定の基準を満たしていれば手続きが不要となった。
接道義務違反を回避する方法
道路幅員や間口が足りず接道義務を満たしていない物件でも、再建築可能にして資産価値を上げる方法がある。代表的な方法を2パターン紹介する。
セットバック
道路幅員が足りない「みなし道路」に接している物件は、道の中心から2メートルの位置まで後退することで再建築が可能になる。
自治体によっては工事費用が所有者負担となることもあるが、再建築可能になることで資産価値は高くなる可能性が高い。
セットバック幅は現在接している道の幅によって変わるため、どれくらいの面積が道になるのか購入前に把握すべきだろう。
隣の土地を購入する
接道間口が2メートル以下の物件の場合、隣の土地の一部を購入して接道義務を満たし、再建築可能にする方法もある。
隣の所有者との交渉次第になるが、上手くいけば少ないコストで資産価値を上げられる可能性がある。
ここでご紹介した以外の方法もある。詳しくは下記の記事を参考にしてほしい。
接道義務に関する事例
【概要】
不動産仲介業者からアパート一棟を購入し、10年間賃貸運用した後、建て替えを検討した際、接道義務を果たしていないことが発覚した。
接道義務を満たしていない場合、基本的に重要事項説明書や契約書に記載するべきだが、記載が漏れていたり、意図的に隠ぺいされてしまったという事例は少なくない。
契約不適合責任や説明義務違反を追及することで、売主や不動産仲介業者に賠償請求できる可能性は高いが、裁判になれば手間や時間を取られてしまう。
築年数が古いアパートやマンションを購入検討する際は、自身でも接道条件をチェックしてトラブルを事前回避するべきだろう。
まとめ
接道義務は不動産物件の資産価値や運用に関わる要素なので、購入検討時に必ずチェックしてほしい。
古い住宅地にある集合住宅の場合は接道義務違反による建築制限だけでなく、災害や入居率などの運用面のリスクもある。物件価格や築年数だけでなく、運用コストや耐用年数が過ぎた後の出口戦略もしっかり見据えた方が良いだろう。