賃貸経営における原状回復特約とは|例文と判例で解説

賃貸経営における原状回復特約とは|例文と判例で解説

アパートやマンションの契約において、オーナーと入居者の費用負担を決める原状回復特約は非常に重要なポイントだ。

原状回復費用をめぐって入居者とトラブルになるケースは少なくないため、お互いに納得の上で漏れのない契約内容を決めることが大切だ。

また原状回復特約はしっかり内容を精査しないと無効になってしまう可能性もある。

今回は原状回復特約の基本的な考え方や具体的な例文、実際の判例などを紹介する。

 

賃貸契約における原状回復とは

原状回復とは元々の状態に戻すという意味で、賃貸契約においては退去する際に契約時の状態に戻すことを指す。

住んでいるうちに付いたキズや汚れなどが原状回復の対象となるが、通常の使用方法による損耗は対象外となるのが一般的だ。

ただし実際は通常の損耗と故意・過失による損耗の判断が難しいケースも多く、費用負担を巡ってトラブルに発展することもある。

原状回復の具体的な内容やガイドラインについてはこちらのコラムでも詳しく解説している。

【参考】大家も知らないと危険!原状回復のガイドライン

 

原状回復特約とは

貸主と借主の原状回復の負担割合を契約内容で定めることを、原状回復特約と呼ぶ。

例えば通常使用における壁紙の色あせは貸主が負担するのが一般的だが、原状回復特約で定めておけば借主に負担してもらうことも可能だ。

貸主・借主がお互いに納得した内容であれば、原状回復の負担する内容や割合を自由に取り決めることができる。

原状回復特約では、ハウスクリーニング・襖や畳の貼り替えなどの費用負担が対象となることが多い。

ポイント01

 

原状回復特約が無効になるケースもある

原状回復特約は貸主・借主の合意が前提となっているが、実際の契約では借主の方が情報量や交渉技術で弱い立場になることが多い。

また借主にとって不利な契約となることも多いため、次の3つの要件を満たしていないと原状回復特約が無効となる。

・特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在する

・賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識している

・賃借人が特約による義務負担の意思表示をしている

また3つの要件を満たしているか判断する具体的な4つの基準もある。

・原状回復範囲が明確になっているか

・原状回復の費用が予測可能か

・『義務以上の負担』であることを借主が認識しているか

・原状回復費用が暴利的でないか

原状回復の範囲や実際にかかる予測費用が明示していないと、特約を結んでも無効になる可能性が高い。具体的な内容は次の章の例文で詳しく解説する。

また契約内容に問題が無くても、一般的な原状回復義務より負担が大きいことを借主が認識していないと無効となる。

「退去時のクリーニング費用3万円は借主負担とする」と特約を記載する場合、クリーニング費用は一般的に貸主負担であることを説明しなければならないわけだ。

また相場からかけ離れた金額も無効になる可能性が高いため、しっかり費用相場を調べて特約内容を決めるべきだろう。

ポイント02

 

原状回復特約の例文

実際の賃貸契約における原状回復特約について、具体的な例文を挙げてみていこう。

例①:明け渡し後のハウスクリーニングにかかる費用については借主がこれを負担する。なお、費用は一律30,000円とする。

国土交通省が定めるガイドラインでは、退去時に借主が通常の清掃を実施している場合のハウスクリーニングは貸主の負担と定めている。

しかし上記のように具体的な金額を明記したうえで原状回復特約を結べば、借主に負担してもらうこともできる。

ただし、一般的には貸主負担であることを説明したうえで納得してもらわないと無効となるので注意が必要だ。

参照元:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

例②:故意・過失による壁紙の損傷について、貼り替えは部屋単位とする。なお、費用は1㎡あたり1,000円程度とする。

賃借人の過失による壁紙損傷の原状回復は部分補修の費用負担が一般的だが、特約に明記しておけば一部屋単位で負担してもらうことも可能になる。

この場合も入居者に一般的には部分補修であることを事前説明し、納得してもらった上で契約を結ぶ必要がある。

 

原状回復特約に関する判例

最後に、原状回復特約に関する実際の判例を一つ紹介する。

【概要】

借主Aは賃料5万5千円、敷金20万円で建物の1室を賃借人Bと契約した。

賃貸借契約には「自然摩耗および通常使用による損耗について、賃借人が原状回復義務を負う」という特約が含まれていた。

賃貸借契約が終了しAは建物を明け渡したが、Bは原状回復費用として20万円を要したと主張し、敷金全額の返還を拒否した。

Aは原状回復特約が無効であるとして訴えを起こした。

【判決】

Bは契約時に必要十分な情報を与えておらず、Aが自分に不利な契約内容であることが認識できていなかったと判断された。

賃借人の義務を加重し、利益を一方的に害しているということで消費者契約法10条に該当し、無効であるとされた。

一般消費者と不動産事業者の情報力・交渉力には差があり、不利な契約内容であることを隠してしまうと特約は無効となる。

賃借人に十分な情報を開示し、納得してもらった上で原状回復特約を結ぶことが重要である。

 

まとめ

アパートやマンション退去時の原状回復は、費用負担を巡ってトラブルになるケースも少なくない。

スムーズな退去と余計な費用負担を回避するためにも、原状回復特約でしっかり責任の所在を明文化しておくべきだろう。

また賃貸借契約では借主の立場が弱いとみなされ、保護されるのが基本だ。入居者にとって不利な契約内容にならないよう注意し、十分な説明を心がけてほしい。

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最終更新日 : 2020年4月20日
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